スウェーデンでは現在サービス・イノベーションが進んでいる。イノベーションというのは元来、工業技術などに使われる概念で「それまでの常識を覆す画期的な改革」といったような意味で使用されるが、より広い分野に適用されるようになってきている。まあ、言葉が独り歩きしている感が無くもないが。そして、サービス分野におけるイノベーションが、スウェーデンでは国を挙げて取り組まれている。といっても、国はお金をだすだけで、実際の計画・実行は現場に近いところでなされている。スウェーデン地方自治体協議会(SKL)は県とコミューンの代表が参加している雇用主連盟であるが、国のイノベーション機関である革新庁(VINNOVA)と契約を結び、SKLの主要管轄分野である地域の医療・介護分野におけるイノベーションの促進を図っている。
SKLではまず、医療・介護部門におけるイノベーションはどう実行すればよいか、ということから始め、基本的なモデル(下図)を提示している。非常に基礎的なモデルに見えるが、実際の日々の業務に全力疾走しなければならない現場では、改善のためにちょっと立ち止まって全体像をとらえなおすことが重要なのだろう。
SKLでは希望に応じて各地方自治体にアドバイザーを派遣してモデルの使い方などを教示している。一方、独自のイノベーション局やイノベーション公営企業を地域内に設立する自治体も出てきた。
そのような試みを行っている一つにヴァルムランド県に設立されたエクスペリオ・ラボ(Experio Lab)という会社がある。エクスペリオ・ラボは2013年に設立されたが、今まで医療・介護分野における12のプロジェクト(慢性病患者から学ぶこと、患者&近親者教育、患者の輸送改善、等)を遂行し、現在も複数のプロジェクトを手掛けている。そのうちの一つ、「医療における男女平等の試み」を例にとろう。
このプロジェクトは2014年4月から10月まで行われ、医療現場で実際にある男女差別を分析し改善策を提示したものである。たとえば、医療現場では従来以下のような男女差があった。
・男性は女性より高価で効力のある乾癬薬を得ている
・白内障の手術に関して女性は男性より長く待たされる
・男性の方が女性より自殺率が高い
・医療に対する不満を訴える女性は男性の2倍
・医療における男女差別により、男性も女性も失うものが大きい
差別の原因はいろいろあるが、解決策としては問題があることを知ること、情報を徹底することなどが挙げられている。
解決方法としてはシンボルとしてキムと名付けられたタツノオトシゴを使ったポスター(下図。男女差があることにより男女ともに損をしている、と表記されている)を病院の休憩室などに貼り、注意を喚起したり、医療従事者に対するセミナーを開催したりした。
エクスペリオ・ラボには、スウェーデン工業デザイン連盟(SVID)も協力しており、イノベーションとデザインのコラボレーションも図っている。