2年に一回行われるオートメーション・サミットというコンフェランスに参加してきた。オートメーション・リージョンという産業クラスターが主催するもので、NASA(アメリカ航空宇宙局)から宇宙開発のオートメーションのプロをよんできたり、スウェーデンの未来大臣の講演があったり、アトラス・コプコ社などの実践の紹介があったり、盛りだくさんの内容でとても面白かった。コンフェランスが行われたのはストックホルムから列車で1時間ほどの距離にあるヴェステロースという市で、ABBの本拠地だ。ABBは原子力設備など重電の会社だが、ロボットやオートメーションもお手の物で、ヴェステロース周辺には関連の会社も多くあり、クラスター(Automation Region)を形成している。
オートメーションという言葉からは、工場で動いていくゴムバンドの上を工業ロボットの手がちゃかちゃかと動いているというイメージしかわかなかったが、実は、製造工程のデジタル化、特に機械と人、あるいは機械と機械のインターネット・コミュニケーションなどがホット・イッシューとなっているのだった。
現状は、オートメーションの現実の方が先に進んでいて、人間の方がついていけないのだとか。アトラス・コプコ社が現在製造に使っているロボットは手が95本もあるそうだ。95本がそれぞれ別の動きをするのだろうから制御が難しいのは想像できる(からまってしまったりしないのだろうか?)。
また、再来年からヨーテボリ市では操縦者のいない車レーン(レーンに車が乗ると勝手に走っていく)がオープンするのだそうだが、現在の道路交通法ではそれに関する法規がないのだとか。それはそうだろうな、想定外だろうから、と思うけれど。人間がついていけないのだから、ましてや法律はもっとついていけないのだろう。
自動車同士が勝手に会話できるような新しい「言語」の開発も進んでいるそうだ。運転手とは無関係に「前方に障害物あり。急ブレーキをかける危険があるから注意せよ」というような信号を後続車に自動車が発するようなことを想定しているものだ。外からのネットワークで始動する「インテリジェント自動車」はもう存在していて、ハッカーが悪さをして事故を起こすといったような事件も散見されるようになっているが。
オートメーションとはちょっとずれてくるが、自動車とネットワークの現実が進んでいて法律が追い付いていっていない別の例では、「ちょっとついでのマイクロビジネス・モデル」がある。たとえば、ある人が「私はこれからA大学にでかけるが、なにか用事はないか?一緒に車に乗っていくか?」とネットワークで呼びかけると、「それならばB研究室に行って荷物を取ってきてくれ」とか「では10時にC地点で私をピックアップしてくれ」、「OK、300円で引き受けよう」といったようなやり取りが瞬時にできるというもので、実際にそのようなアプリケーションがあるのだという。そして、それは法律に抵触する、というかそのようなビジネスをカバーする法律はまだない、というのだ。
オートメーション・サミットでは、ロボットダーレンとよばれるロボット・クラスターが毎年受賞しているロボット開発コンクールの金・銀・銅三賞の発表もあった(写真)。今年はすべて受章者は外国企業あるいは研究者だった。銅賞は緑内障のロボット手術技術を開発した米国の教授、銀賞は3D技術を駆使してアート作品を石から切り出す技術を開発したデンマーク企業、金賞は手の指を意思によって動かせるオープン・バイオニック・ハンド(いうなれば自分自身の手のロボット)を開発したギリシャ人研究者グループだった。どれも非常に興味深い未来の技術だ。