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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(18)】
スウェーデンで手術を受けてみる

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2015.07.01

変形関節症のため、股関節の手術を受けた。スウェーデンで手術を受けるのは長男を緊急帝王切開で出産した時以来約30年ぶりだ。30年の間にスウェーデンの医療事情も随分変化したので今回はそのレポートを。

ずっと前から腰痛持ちだったのだが、数年前からそれが股関節に移動し、だんだん歩くのが辛くなっていた。今から1年前に、半年かけてようやく専門医に会うことができ、下った診断が変形関節症だった。医師はかなり進行した状態だ、と言ったけれど人工関節に置換する手術をするかしないかは本人の判断だ、と「手術した方が良い」とは一言も言ってくれない。その時には心の準備ができていなかったので、しばらく痛み止めを飲みながら理学療法士のもとでリハビリをすることにした。「痛み止めが効かなくなったら手術を決心しなさいね」と言われ、とぼとぼと専門病院を後にして半年後、ついに潮時だな、と思うようになり、専門医に連絡を取ろうとしたら、最初から手順を踏まないとダメと知りがっくり。つまり、私が住んでいる地域のハウスドクターに会い、専門医への紹介状を書いてもらわねばならないのだ。ハウスドクターに会ってもらうにはインターネットのフォームに症状を書いて申し込む。申し込んでから約6週間後に予約が取れ、運よく一年前と同じお医者さんに会うことができた(料金150クローナ)。一般医である彼は血圧を測るくらいしかすることがなく、すぐに紹介状を送ってくれて、専門病院からの呼び出しが来たのがその2か月後。そしてそこでの面接でこれまた運よく一年前と同じお医者さんに会うことができ(料金200クローナ)、手術日に決まったのがさらに2か月後。

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ストックホルムにはカロリンスカ病院という大きな大学病院があるが、それとは別にいくつかの小さな病院があり、それぞれ専門的な治療を受け持っている。私が手術を受けたのは自宅からバスで40分くらいのところにあるナッカ病院だ。ナッカ病院に行って驚いたのは、アレリス(Aleris)とカピオ(Capio)というプライベートの医療会社が全館を二分していること。約25年前に次男をここで出産した時には100%公共の病院だったのに。手術の2、3週間前に看護師や理学療法士から説明を受ける。杖を使う練習をしておきなさいといわれ、杖を貸してもらう。腕にはめるごついやつで、左右両方使うと他になにも持てない。手術後の自宅でのリハビリに備えて地域の医療センターのリハビリ部門の作業療法士に連絡を取れと指導される。

家に戻って医療センターの作業療法士に会いに行く(料金100クローナ)と、手術後関節を90度以上曲げてはいけない(人工関節が外れてしまわないように)ので、椅子に乗せる座布団と、トイレの座面を高くする装置、シャワーの時に座れるようにバスタブに渡す板、床から物を拾う器具、靴下をはく補助器具などが必要と言われたが、もはや杖をついていてそんなものを持てる状態ではないので、手術前日と退院日に家まで運んでもらうことになった(無料)。ウチは医療センターからは車で移動するほどの距離ではないので、それらを全部担いで持ってきてくれた作業療法士さんに感謝感激(その後、補助器具は借り賃がトータル100クローナで後で請求書が送られてくるという説明があった。3か月をめどに地域の医療センターに返却するシステム)。

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手術2週間前くらいに病院から呼び出し状が来て、何月何日の何時までに来ること、前夜は2回、特別な洗浄剤(2回分入り1箱で薬局で150クローナ)でシャワーを浴びることなどが書いてある。当日手術前にもう一度病院でオキヨメするが、時間によっては直接手術室に呼ばれる場合もあるので自宅で3回になるとか。アレリスもカピオも医療サービスを提供する会社だが、極力、患者が自分で自分のケアをすることに力を入れているのだな、と思った。その分病院内でかかる費用を節減して利益を上げるわけだ。

入院中基本的に私服というのも、あら、そうなの?と思ったポイントだ。私の場合は体の真ん中(側面だけど)を切るという「大手術」だったので手術着を着用したが、脛や腕などの「軽い」手術を受ける人たちはTシャツ姿で手術後ベッドに乗って運ばれていたので驚いた。

ナッカ病院のアレリスでは大きな手術(股関節、膝など)は原則として月曜と火曜に行い、その他の曜日は軽い手術のみ、とのことだが、私が手術を受けた週は大きな手術が14件もあり、最高記録を更新したそうだ。ちなみにナッカ病院は全国一股関節手術数の多い病院だそうだ。

シャワーも済んでいよいよ手術室に運ばれ、大きな万力で手術台に固定され、手首から麻酔剤を注入されあっという間に眠って、起きたら病室に運ばれていた。術後2時間くらい経過していて看護師さんが膀胱を超音波でチェックして「トイレに行きたいでしょ?」ときくので「行きたい」というと「行ってもいいですよ」と杖を指さすので自力でトイレへ。その後夕食タイムで「なにか食べる?」ときかれたけれど麻酔薬や鎮痛剤のために食欲がなくてジュースだけもらう。病室は4人部屋でカーテンで仕切ることができたけどほとんど開けっ放しだった。私の前と後に手術した人たちは果敢にパスタやサンドイッチを頼んでいてたくましかった。私の隣はエステルシュンド(Ostersund)というノルウェーとの国境近くの街から来た男性で、私の前に膝の置換手術を受けていた。その向かいはストックホルムの南に住む女性で股関節の手術、私の前はストックホルムの北に住むトルコ人女性でやはり股関節手術を受けていた。エステルシュンドからの男性は自分の住むところでは年末まで待たねばならないので、手術コーディ―ネーターがストックホルムでの手術をアレンジしてくれたのだと語った。それにしてもビヨーン・ボルグのパンツいっちょでおじさんが歩き回る(トイレとかシャワーまで)のもスウェーデン風でおおらかだった。病室は携帯電話も話し放題でWiFiもあった。入院は3日間で、最初はベッドに運んでくれた食事も、2日目からは食堂まで歩いていくことに。毎日理学療法士がやってきて簡単なトレーニングをする。退院後に備えて、鎮痛剤と血栓を溶かす薬(使い捨ての注射器入り)の処方箋をもらって、病院内の薬局で購入する(約400クローナ)。退院に際しては、遠くから来ていた上記のおじさんはタクシーと汽車の移動費用の補助金がもらえたようだが、ストックホルムからの3人は自己負担だった(声を大きくして申請すれば認められたかもしれない)。社会保険局へ提出する書類、地域の医療センターで2週間後に抜糸してもらうための指示、理学療法士への指示などの書類を前日にもらって、あっけらかんと退院した。手術・入院費用自体は無料だ。

最初に書いたように患者と認められるまでにすごい時間を要するけれど、いったんシステムに乗ってしまえば非常に効率的なケアが受けられるのだな、と思う。

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