スウェーデンは世界有数の男女平等の国。といえども随所に男女格差は残っている。平均給与では同じ職に就いていても約10%の差がある。育児休暇の取得率に関しても男女の差は歴然。高校の職業系コースの選択は男女によって大きく異なる。自動車整備工コースには女子はいないし、美容師コースには男子はいない。幼児の誕生会でのプレゼントは女の子にはお人形、男の子にはメカっぽいレゴが定番。
それでも少しずつ男女平等社会に向かってスウェーデンは進んでいる。ライフステージのどの段階でも存在する男女不平等の改善には、どこから手を付ければよいのか?スウェーデンの国の政策としては、現在二つの局面で具体的対策が考えられているようだ。
一つは高等教育へのリクルートにおける男女差の解消。もう一つは育児休暇の取得を母親・父親の間でより平等にすること。育児休暇についてはまた別の機会に取り上げることにして、今回は前者について書こう。
2014年秋に政権交代となったが、前ライフェルト内閣(保守中道4党連立政権)は、2010年から2014年までの4年間で4700万クローナ(約7億円)もかけて高等教育における男女平等の促進を図った。これは、各大学が自分たちのところではこのようなプロジェクトを行う、と申請してそれに対して補助金を支給するというものだった。37のプロジェクトにお金がおりた。例えばストックホルム市内のエーシュタ・シェンダール看護大学では、看護系教育コースに学ぶ男子学生に学習動機や学習環境についてのインタビューをし、その結果を踏まえて、高校生に同大学をPRする際に男子高校生も関心を持ちやすいような工夫をした。ヨーテボリのシャルメシュ工科大学では逆に技術系コースに学ぶ女子学生を対象に同じようなインタビューを行い、同じような勧誘活動をした。ヨーテボリ大学音楽・演劇学校では、「音楽と性差」のコースを新設した。
しかし、総じて、結果は芳しくない。2010年から2014年までの4年間(つまり第二次ラインフェルト内閣の4年間)に高等教育における男女平等促進専門委員会が設置されたが、高等教育の各専門コースにおける女子学生・男子学生の割合は非常に固定しているばかりか、20年前に比べてさらに差が広がっている傾向もみられる(表1)。現ロヴェーン内閣(左派中道=社会民主党と環境党の連立政権)は、2015年中に新たに専門審議会を設置し、1年後に高等教育における男女平等の提言をさせるという。また、2015年中には北欧審議会でも北欧各国で高等教育の技術系・自然系に学ぶ女子学生の割合についての調査が行われるそうだ。調査は重要だけれど、具体的な方策の方が求められているのではないか、と思う。
高等教育における男女平等の促進には教員の男女比率をより平等にする試みも含まれる。つまり学生ばかりでなく、教員も男女同数を目指そうというものだ。高等教育庁長官のハリエット・ワールベリ氏の講演(2014年11月25日)では、大学における女性教員の割合は講師のレベルでは2003年から2013年までの間に33%から43%までに拡大したものの、教授レベルでは15%が23%への拡大という遅々とした歩みに過ぎなかった、という事実が明らかにされた。ワールベリ氏は長らくカロリンスカ研究所所長を務めた人だが、彼女によれば、教授への昇進の前には女子研究者にとって「ガラスの天井」(見えない障壁)があるという。それは彼女を引き上げてくれるはずの上司が男性であるために女性の登用に消極的であること、女性研究者は男性研究者のようには「ネットワーク」をもっておらず孤立しがちであること、などである。一方、明るい点として研究所や大学のトップに占める女性の割合が急激に増加していることが指摘された(2014年11月のスウェーデンの34の主要大学・研究所の長の女性の割合は53%=18人。1990年は14%、2000年は30%だった)。今後、スウェーデンの高等教育においては、トップダウンで進められる男女平等に期待されよう。
*参考*
・大学審議会レポート: http://www.uhr.se/sv/Framjande-och-analys/Delegationen-for-jamstalldhet/DJ---projekt/Ersta-Man-i-valfardsarbete/
・2014年11月25日の講演: http://www.iva.se/seminarium/kvinnorna-tar-ledningen/