● 大学のねらいと企業の期待
大学が正規授業としてインターンシップを実施する場合、その主なねらいは「(学生と企業の)マッチング」ではなく、中長期的な人材育成である。社会人基礎力や人間力、困難な状況に対応できる力の育成や、将来のライフキャリアを考える機会の提供である。
一方、企業は「PR」や「マッチング」をインターンシップに期待している。公募型のインターンシップが普及し、インターンシップ先に対する関心の高さが、学生に求められるようになった。公募の厳しい選考を勝ち抜く学生は、その会社や業界に興味があり、就職先の一つとして見ているからである。
私が携わる授業としてのインターンシップでは、学生は必ずしも第一希望にインターンシップに行っていない。インターンシップ先は、運営サイドが提出書類と面談で決めるが、決め手は「その学生にとって必要な体験とはどのようなことか」である。
一回り、二回り成長できる場、新たなそして多様な自分の可能性に気づける場はどのようなところか。自分らしさや自分の強みを発揮し、成功体験だけで終わるインターンシップは想定していない。できないことにも直面し、モチベーションが下がってしまうような状況をどのように乗り越え、モチベーションを回復するのか。学生が自分なりの工夫、手だてを考え、試行できる場で、それを支援してもらえる場を考えている。
もちろん、学生の指向やそれまでの体験、将来の方向性なども参考に、終始モチベーションが下がりっぱなしで、困難を乗り越えられないような状況にならないよう配慮はしている。
● 「意味づけ」の大切さ
「学生にとって必要な体験」は、学生一人一人によって異なる。学生からはよく、そして時には企業担当者からも「どうして私はこの会社でインターンシップなのか」と問われる。それは自分で考えてもらうことにしている。
社会に出ると理不尽なことが多い。判断や評価の基準が明確にされないことも多い。仕事でも「何のために」といったことを、いちいち上司は説明しない。ライフキャリアにおいてはなおさらである。おかれている状況や役割、経験や選択などを、自分で意味づけできるかで、自身のモチベーションや見える風景が違ってくる。
● 事前授業と事後授業の役割
このようなインターンシップに対する人材育成の視点は、大学や運営サイドに偏ったもので、企業や学生のメリットからずれる部分もある。「自社への関心が薄い」「インターンシップの目的意識があいまい」という指摘や、「短期間で複数の企業を見て回りたい」「希望する会社や業界でインターンシップをしたい」という要望は良く耳にする。
これらのギャップを埋めるために事前授業が重要となる。漠然と「働く」ことについて考えるだけでなく、ビジネスマナーといったノウハウだけでなく、インターンシップ先の企業についてどのように下調べをしたらいいのか、かかわる仕事にどのようにコミットできるのか、その仕事は企業でどのような位置づけなのかなど、より具体的に考えられるような工夫をしている。
しかし、授業と実践は別物である。緊張やどうしたらいいのか考えが及ばず、思うように振る舞えない学生もいる。そこは企業が人材育成力を発揮する場面ととらえてもらいたい。学生は実践の場で注意や助言を受けて、気づき、成長する。
企業からは「どこまで学生にやらせたらいいのか」とも言われる。夏休みの3~4週間でどこまで指導していいのか、ということである。限られた期間では関係づくりも難しく、厳しく指導してもその後のフォローができない。ネガティブな体験や感情のままでインターンシップを終えてしまう可能性もある。
このような懸念をなくすために事後授業がある。インターンシップの体験を振り返り、そこからの学びを整理する。ネガティブな体験もとらえ直し、意味づけをし、結果としてポジティブな「経験」にしていくというプロセスである。このプロセスを身につけることが、困難を乗り切る力に繋がっていくと考える。
次回は、インターンシップを通じて見えてくる「学生の自己理解と他者理解」についてふれよう。