2006年HRIを退職し、現職に就いてから、私はキャリア・リソース・ラボが運営するインターンシップの授業[1]に携わってきた。2000年からスタートしたインターンシップの授業であるが、この10年余りで大学生も企業も、そしてインターンシップ事情もだいぶ変わってきている。大学生を社会へ橋渡しする立場から、若者や企業について見えてくる風景と私の考えを5回の連載コラムで伝えようと思う。
私たちは、経験したことがないのに何かを決めて選ばなければならない。選んだ結果、予想しないような状況に陥ることもある。子どもが白いご飯を食べるのに口にしたことのない納豆と梅干しのどちらかを選び、そのどちらを選んでも「食べられない」と言って、次からは別のものを選ぼうとする。そんなささいなことは日常的によくあり、そこでの成功や失敗が次の選択に活かされていく。
「人生の選択」も同じである。人生の岐路に立ったとき、それまでどのような体験をし、次の選択でどのような体験をしたいのかを、私たちは意識的に考え、選んでいる。
私たちが成長の過程で最初に直面する「人生の選択」は「会社選び」ではないだろうか。普通の学生であれば、親の意向を汲みつつも、自分で会社を探し、自分で選んで選考プロセスに乗る。しかし、実際に社会に出て働いたことのない学生は、仕事や会社の情報が圧倒的に少ない。それが雇用のミスマッチやリアリティーショック[2]をもたらし、「七五三[3]」という若者の早期退職現象を引き起こしているという。そこには「ミスマッチやリアリティショックは小さい方がよい」という前提があり、インターンシップはそのギャップを埋めるための一つの方法といわれている。専門用語では「現実的職務予告」といって、インターンシップの他には会社PR、会社説明会 、OB/OG訪問、内定者研修・フォローなどがある。
近年、インターンシップが一般的となったことで、学生は希望する企業のインターンシップに応募して、関心のある仕事、職種、会社、業界について知り、就職活動に備えることができるようになった。インターンシップの「現実的職務予告」効果である。しかし、実際、学生が希望する先でインターンシップを体験するのはなかなか難しい。インターンシップにも厳しい「選考」があるからだ。希望する先のインターンシップでさえ「選考」という難関で、どこのインターンシップも経験できなかったというような学生も見られる。
一方、現実的職務予告を広義でとらえると、インターンシップは「『働く』とはどのようなことか」「社会人と学生は何が違うのか」といったことを考える機会となり、理想と現実社会のギャップを埋めることにつながる。しかし、それでは企業にとってのマッチング効果が薄れてしまう。企業にしてみると、自社への入社を希望する学生にインターンシップをしてもらった方が、採用選考という点で有益だからだ。
では、現実的職務予告で「ギャップ」は埋められるのだろうか。答えは「ノー」である。前でも述べたが、現実的職務予告の考えには「ギャップは小さい方がいい」という前提がある。ギャップは小さい方がいいだろうし、小さくする試みは必要である。しかし、ギャップはなくならない。であれば、ギャップを所与のものとし、ギャップに対応する力、ギャップを乗り越える力を身につけるという発想の方が重要ではないだろうか。インターンシップとは、そのような力を養う場であり、リアリティショックを前向きに体験する場といえる。
「会社選び」に直面する学生にとって、インターンシップは、正しい選択をするための体験というよりも、リアリティショックに対処する自分なりの方法を見いだし、ギャップやショックや理不尽な状況を乗り越える力を身につけるための学びの場としたい。学生にもそのような視点を持ってもらいたいと思うし、企業にもリアリティショックに強い人材の育成機会としてインターンシップを支援してもらいたい。
次回は日本でインターンシップがどのように展開され、そこで学生と企業の意識や期待がどのように移り変わっていったのかについて述べようと思う。