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森山和道のインサイト・コラム(8)
双腕ロボット市場が拡大中

サイエンスライター 森山和道
2013.12.01

2年に一度の「国際ロボット展2013」が11月6日~9日に行われた。出展者数は過去最大規模となった今回、産業用ロボットゾーンでは一つ、新たなトレンドが見られた。産業用ロボットメーカー各社による「双腕ロボット」市場への本格参入である。2005年に最初に双腕ロボットを投入して市場を創出した安川電機、2009年に小型軽量タスク用としてロボットを発表した川田工業、そして2012年に安価な双腕ロボット「Baxter(バクスター)」で参入した米国RethinkRobotics社。これらに続けとばかりに一斉に人間サイズの双腕ロボットが登場したのだ。自動車をターゲットにしているとおぼしき不二越、電子機器の組み立て用をターゲットにしたセイコーエプソンや川崎重工業のほか、先行している安川電機も、大幅に軽量化したモデルでバイオ・医療分野への双腕ロボット応用をアピールしていた。

なかでも一番気になったのがABBのコンセプトモデル「FRIDA(フリーダ)」である。まだ本当にコンセプト段階で「用途も何も決まっていない」(同社説明員)とのことだが、ブースでは外部に設置されたカメラによる画像処理を使って、ちょっとした小物を人間と一緒に組み立てていくデモを連続しておこなっていた。やはり電子機器組み立てをメインターゲットにしていると考えられる。

「FRIDA」の驚くべき点はコンパクトさである。通常の産業用ロボットにはロボット本体以外に大きなコントローラーや電源部があって、それらによっても現場のレイアウトがかなり制限される。人間代替が目的の双腕ロボットはもともと2台のアームがひとまとめにされており、本体以外の部分もコンパクトになっていることが多いが、それでも限界がある。ところが「FRIDA」はコントローラーが人間でいえば胴体にあたる部分に内蔵されており、まるで卓上ミシンのように持ち運んで設置できるのだ。ただし、外部カメラなどの処理を行うコンピュータなどは別途必要である。

双腕ロボットもコンセプトは各社それぞれで、床にガッチリ据え置きで自動車産業への導入を狙っているところもあれば、ロボット本体を移動可能にして多変種少量生産現場への投入を狙っているものもある。カメラ一つとっても、精度を出すためにカメラを搭載した頭部をまったく動かさないようになっているロボットもあれば、首を振ることができるロボットもある。0.1mmの精度が当たり前のこれまでの産業用ロボットの常識でいえば、カメラを動かすことはあり得ない。だが、これまでの産業用ロボットが使われてない現場への投入を狙うのであれば、従来とは違うアプローチを取るのも必要になる。そこに各社の戦略の違い、あるいは「迷い」のようなものがまだ見られる。どこに焦点を絞って、どんなロボットを作るべきなのかは現場とのすり合せで決まる。とにかく入れてみないと分からないことが多い。だから間に合わなくなる前に各社がこのタイミングで乗り出して来たということなのだと思う。いっぽう先行している会社に話を聞いてみると「そう簡単には追いつけませんよ」と笑顔で語り、自信を見せていた。立ち上がりはじめた市場の面白いところである。

話を戻すと、デモを見ている限り、おそらく「FRIDA」は、環境側にリジットなカメラを設置した環境下で、自由なレイアウトで気軽にロボットを使えるようにしようというコンセプトなのだろう。卓上、あるいは部屋内に固定の視覚を設置する必要はあるが、あとはお好きにどうぞというわけだ。ここからはまったくの推測だが、この背景には、ここのところMicrosoftの「Kinect」のような3次元で対象の位置を知ることができる深度センサが、劇的に安い価格で、しかも急激に普及し続けていることもあるのかもしれない。どういうことかというと、これからさらに高精度で安価な深度センサ、あるいは似たような要求を満たすセンサーが普及する可能性は決して低くない。むしろあり得る。だからこれまでは難題だった視覚の問題はあまり考えなくても良くなるとふんでいるのかもしれない。これまでは使えなかったセンサーが、今日の常識ではあり得ない密度で現場に投入可能な時代が来れば、それはそのままロボットの知能が一気に上昇するのと同じ意味を持つ。

いずれにしても、これから双腕ロボットのような、組み立てやバイオ実験等の細かい作業をこなせるロボットはどんどん普及していくに違いない。今回、安川電機は抗がん剤の調剤支援ロボットを出展していたが、人がやるには厳しい作業現場はまだまだあるからだ。またかたちは双腕ではないかもしれないが、台湾のEMSのひとつデルタ電子は人を置き換えるロボットの開発を進めていると報じられている。現状ではEMSが雇用している人間よりもロボットのコストを下げるのはなかなか難しいかもしれないが、一度そのバランスが崩れたらどうなるかは想像に難くない。

もっと簡単に色々な業種の様々な工程にロボットを導入するためには、そのための手間やコストを下げなければならない。具体的にはロボットのティーチングソフトと現場の工程表を簡単に適合できるようなソフトウェアが必要で、各社もそれぞれ開発を行っている。

だが、それ以外にも、実際に作業するハンド、エンドエフェクタ部をどう作り込むかということも、実際の導入においては非常に重要だ。たとえば部品をつまんで裏返したりして別の部品にはめこんだ後そのまま回転して締めるといった類いの作業を行うために、どんな手を作れば良いのか。人でもつまむのが難しい小さなバネをうまくつまんで扱うには、どんな指先を作ればいいのか。アーム自体はティーチングプレイバックで動かすにしても、人が指の腹や爪などあらゆる部分を使って行っている作業を、力もあまり出ないロボットの不細工な手にやらせるにはどうすればいいのか。そういったことを、パッと簡単に思いつける人はそれほどいない。将来は本当に賢いロボットが登場して何も考えなくても良くなるかもしれないが、少なくとも現状ではロボット以前の「からくり」を思いつけるような類いの、ある種「泥臭い」才能が必要だ。それを支援するようなソフトウェアや機構作成屋も、また急激に必要性が増してくる。

最近注目の3Dプリンター活用も、実際には現場でのノウハウがかなり大事だと聞く。いずれにしてもこれからはアナログなものづくりの才能がふたたび必要になりそうだ。デジタルの最先端であるロボットの「手先」を見ながら、そんなことを思った。

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