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森山和道のインサイト・コラム(1)「付加製造(AM)技術の可能性」

サイエンスライター 森山和道
2013.05.19

4月12日に日刊工業新聞とモノづくり日本会議の主催で「超ものづくりカンファレンス 製造業革命"メイカームーブメント"~3Dがモノづくりを変える(http://www.nikkan.co.jp/html/maker/)」が政策研究大学院大学で行われた。3Dプリンターやメイカームーブメントをキーワードとしたカンファレンスで、共催の経済産業省によってMITビットアンドアトムズセンター所長のニール・ガーシェンフェルド氏が招聘されて初来日。氏は「私は3Dプリンターは好きじゃない」「いま3Dプリンターを喧伝するのはかつて電子レンジが騒がれていたようなもの」などとジョークを交えながら講演を行った。

ただ、具体的な講演内容は基本的に、彼の著書「Fab」の内容とほとんど同じだった。彼の講演と、その後に行われた日本のメイカー系企業の代表取締役3者とトーマツベンチャーサポート株式会社の斎藤氏によるパネルディスカッションの様子は、公式Ustreamで閲覧できる(http://www.ustream.tv/channel/cho-monodzukuri)。なお経済産業省は、平成25年度から「超精密三次元造形システム技術開発プロジェクト(http://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/k130410001.html)」という事業を始めている。小規模ながら、国も新しいものづくりに注目を始めていることは間違いなさそうだ。今回のカンファレンスも募集を始めて二日足らずで定員に達してしまったという。

Ustreamにはアーカイブされていないが、カンファレンスでは東大生産技術研究所の新野俊樹教授(http://lams.iis.u-tokyo.ac.jp/)も「Additive Manufacturing(付加製造)技術によるものづくりの現状と可能性」と題する講演を行った。新野氏は3Dプリンターは「Additive Manufacturing(付加製造)」装置のうち安価なもの、性能の低いものだと述べて、「AM(付加製造)」の応用や課題を紹介した。

まず加工とは原材料に手を加えて目的の形と作ることであり、加工には除去加工、成形加工、付着加工の3種類がある。それぞれ、高精度、高生産性、高形状自由度と利点がある。付加製造とは、「物体を3次元形状の数値表現から作成するプロセス」として定義される。3Dプリンタなど積層造形は基本的に3次元データから2次元のスライスデータを作り、それを何らかの方法で実体化し、積み上げるという方法で作られている。AMには液槽光重合、粉末床溶融結合、結合材噴射、シート積層、材料押出堆積、材料噴射堆積、指向性エネルギー堆積などの手法があるが、いずれにしても基本は同じである。

新野教授は各方法をざっくりと紹介した。ちなみにいわゆる3Dプリンタは材料押出堆積法である。いっぽう、メディア等で「3Dプリンター革命」の応用の広がりを伝えるようなサンプルとして紹介されることが多い、金属加工製品は指向性エネルギー堆積法で作られている。これは要するに溶接技術で、金属粉末をレーザーで融かして肉盛りしていくというものだ。

AMの良いところは、金型がいらないところである。そのぶん、精度は出ないし、量産効果もない。だが、実は大きさが小さいものであれば、金型よりも安くすむこともあるという。また、金型を置くスペースが全く不要であるという点は製造現場にとってはかなり大きいようだ。環境負荷についても同様だ。精度についても、鋳物くらいの精度は出るとのことなので、単に機能模型を作るだけではなく、実際の最終製品までもっていける可能性が極めて高くなっている。特に海外では、積極的に使われるようになっているという。

また新野氏は「非ラピッドアプリケーション」の面白さについても語った。つまり、型抜きや削りのような手法では作れない複雑な形状や、表面加工を施したようなものを作るための製造技術としてのAMだ。新野氏は電波を吸収してしまう特殊構造の材料や、表面に微細加工を施すことで生体親和性を大幅に高めた組織工学(再生医療)用の人体置換材料などの例を紹介した。いずれも氏の研究室で試作しているものだ。

AM活用のポイントはcomplexityを味方に付けることだという。これまでの製造業では、作れるものしか作ることができなかった。だが、自然物(人体など)は製造技術の都合を考えて作られているわけではない。また、これまでは製造技術の縛りによって、自然に発想が抑制されていなかったのではないかという。そして、作りやすいものが芸術的あるいは人間にとって価値があるわけではないのは言うまでもない。つまり、これまでの抑制を解き放つところから、新たな製造業の可能性が拓けるのではないかというわけだ。

いまは計算機を積極的に使ったものづくりが可能になっている。単なる3DCADのことではない。最適化等のことだ。だがこれまでは「出口がない」と言われ続けて来た。最適化計算できても、その構造を実際に作ることが不可能だったり、きわめて高コストにつくことが多かったからだ。だが「付加製造」はそれを突破する可能性がある。

もうひとつのポイントは、元々のデータがデジタルであり、機械に入力すれば自動で作ってくれるという点だ。デジタルなので、地球の裏側にデータを送れば、そのまま作ることができる。MakerBot Industries社の「Thingiverse(http://www.thingiverse.com/)」や「GrabCad(http://grabcad.com/)」のようなデータ共有サイトのほか、「3DLT(http://3dlt.com/)」、「FABULONIA(http://www.fabulonia.com/)」、「Azavy(http://signup.azavy.com/)」、「MakerShop(http://www.makershop.co/)」など、3Dデータ販売プラットフォームも多く立ち上がり、拡大を始めている。これまでは製造して流通させて販売するのが当たり前だったが、その順序が変わろうとしている。

流通させるのがデジタルデータであることから、その権利をどうするかという問題も起きている。これについてガーシェンフェルド氏は「特許は取っても無駄だ」と切り捨て、とにかく流通させたほうが良いと述べていた。だが、そこまで大きく考え方を変えることができるかどうか? それが妥当なのかどうか。新しい時代のビジネルモデルが必要なのだろう。

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