FUTURE SCOPE

2019.04.22

個人の自律的な働き方が
新たな社会を切り拓く

ミクル株式会社・福井 直樹氏

福井 直樹氏

 オフィスレス、ベーシックインカムなど、働く環境の変化が取り沙汰されることが少なくない昨今。そうした新たな働き方や仕組みのいち早い導入・実践を進めている、ミクル株式会社代表取締役CEO福井 直樹氏に、これからの未来社会における「働く」についてお話を伺った。

個人がみずからロールモデルをつくり上げ、成長する

 私は、学生時代にCADを学んでいました。1991年には、パソコン通信の世界で「AutoCAD」と呼ばれていた分野の国際的なフォーラムが開催され、学生ながら錚々たる企業の経営者の方々と一緒に海外に出向く機会を得ました。
 当時を振り返ると、20歳という若手でしたが、インターネットのおかげで自分の世界が広がる経験をしました。時間・場所はもとより、年齢にも関係なく、ネットが人とのつながりや活動の場を提供してくれたのです。
 従来、人は勉強を重ね学歴を、また経験を積み職歴を獲得して、みずからの成長の証としてきました。そこでは、学校や会社の先輩などに自分の姿を重ね、将来を思い描いたものです。しかし、ネット社会の現在では、学生をはじめとする多くの人々は、ITリテラシーや語学スキルを高めさえすれば、自分の目指したい未来に一足飛びにいける環境が整っています。たとえば、著名な起業家からのメッセージをTEDで見聞きする。すると、全世界の現在進行中である起業や技術、マネジメントの動向に関して、容易に情報を獲得することができます。
 もはや、大学や企業などという組織の中だけで、自分をどのように高めていくか?ではありません。ネットを介して身近な存在となる多種多様な対象者から、みずからのロールモデルをつくり上げ、自分自身を成長させていくという社会が到来しているのです。

自律したい個人の成長を担う会社「ミクル」

 これからの時代は、個人の成長という概念が大きく変わります。今までは、知識やノウハウを自分の中に取り込んで成長するというものでした。しかし、今後はスマホにアプリをインストールするかのように、自分の周囲に知識やノウハウを配置していくことが肝要です。「アイアンマン」という映画をご存知でしょうか?アメリカンコミックが実写化されたヒーローもので、主人公自身が特別な人間というわけではなく、パワードスーツを身に纏い活躍するストーリーが描かれています。そんなイメージが、今後の個人の成長の概念に近くなるはずです。
 ところで、2005年、ネット社会の環境整備の本格化を目の当たりにするも、周囲は相変わらず、人・企業ともに東京への一極集中という現実がありました。企業のオフィスレスといった取り組みも、当時はまだ見当たりませんでした。それならば、「自分でその変化を起こしてやろう」と思い、オフィスレスとして立ち上げた会社がミクルです。
 現在、創業から14年経ちますが、ミクルには変わらないミッションがあります。それは、“自律したい人々のために新たな働き方を創造していく”ということです。

“個人”と“会社”の関係が対等に

 ミクルでは、基本的にどんなビジネスをしても良いことになっています。“会社がこういうビジネスをやっているから、そこに入社してください”ではなく、“私たちの会社に入ると、自分のやりたいビジネスができますよ”という。たとえば、事業の一つとして、「マンションコミュニティ」という、マンション購入を検討する人同士が情報交換できる口コミ掲示板サイトの運営を手掛けていたりします。
 ミクルという会社は、何かを実現したい個人のための共同体という捉え方ができます。したがって、一般的な株式会社とは、ややイメージが異なってみえるはずです。それは、個人が「ツール」として使うために会社がある。個人が人として成長し、能力を拡張させていく場という定義が一番しっくりくるのかもしれません。
 こうした会社のあり方は、個人と会社の関係を大きく変えていくはずです。現状、社会に目を向けると、個人が圧倒的に小さく、会社が大きな存在として映ります。しかし、個人が会社を使ってどんどん成長していければ、個人と会社の関係が対等に近づく未来も現実味を帯びてきます。
 そうすると、会社にとっても、人を抱え込むことなく、いろんな人材を活用して事業を推進できるようになる。現在のような、社員を雇用せねばという硬直した発想ではなく、本当の意味で事業を通して会社が成長するという方向に進んでいけるに違いありません。

人材育成を織り込んだプロジェクトの推進

 ミクルの経営は、資本主義と社会主義が共存するような仕組みになっているのも特徴です。自分のやりたいビジネスができるという、起業家に近いイメージであるため、ミクルでは給料は自分で稼いでくる考え方が基本になります。ただ、その場合、稼げないリスクが付き纏います。そこで、ベーシックインカム的な金額を設定して、それ以外を自分で稼ぐという制度をこれから導入していこうとしています。
 また、ミクルには会社をつくった時から、2つの徹底したルールがあります。「仕事をしちゃダメ」、「頑張ってはダメ」です。これらは、普通に考えると“自分で稼ぐ”こととは矛盾して聞こえてしまうでしょう。
 たとえば、10人の会社で、みんなが頑張ったとしても10の仕事しかできません。ミクルはそうではなく、自分と同じことをできる人を2人育てるというミッションを織り込み、プロジェクトを進めます。自分自身がコピーされていくイメージを持って、プロジェクト管理をしていきます。社内ではそれを「コピーロボットをつくる」と言っています。
 つまり、ミクルが本当の意味で仕事と位置づけているのは、起業家のように戦略的な意思決定などルーティン化できないところになります。したがって、プロジェクトは、みずからの手で面接、採用、教育を行ったメンバーによって進めていくことになります。ある部分に関しては自分より優れたメンバーを積極的に採用し、周りにスペシャリストがいる状態をつくります。先程話題にしました、まさに“アイアンマン”がメンバーの一人として登場する“アベンジャーズ”モデルでプロジェクトを推し進めます。様々な能力を持ったヒーローたちが協力して戦い強大な敵に立ち向かいます。

個人が自律して働くこれからの社会

 ミクルのようなスタイルを掲げる会社は、私たちが把握する範疇で、ようやくアメリカに2社現れてきたところです。こうした事例が出てくると、オフィスレスという場所を問わないメリットが活かされて、世界中の優秀な人材がそこに集まっていくようになります。実際、ミクルのような130名程度の会社でもあっても、既に世界中から仕事や人材を獲得できる時代が来ているという実感を得ています。
 そもそも、私たちはミクルのように自律した働き方の個人が、2030年に就業人口比率として8%に到達する社会を思い描いています。そこから逆算して、ミクルは2005年に創業したという経緯があります。そのため、2025年には、自律した働き方の個人が少なくとも就業人口比率で3%となるよう、ミクルは自律したい人々への働き方や仕組みの支援を加速させていきます。
 日頃、生まれた時からインターネットが身近にあるデジタルネイティブと言われる大学生と接していると、自律した働き方によって目指したい未来へ向かう行動をとる人が随分増えてきています。SINIC理論では自律社会の到来時期が2030年と示されているように、私も似た年表イメージを持っています。今の若者が社会で活躍するようになる2025年ぐらいには、個人が自律して働くということが、社会としてより強く意識されるようになるはずです。

福井 直樹氏

PROFILE

ミクル株式会社・福井 直樹氏

 ミクル株式会社代表取締役CEO。
1971年、大阪市生まれ。NTT勤務を経て、1997年ITベンチャーを創業。2000年、事業売却。2001年、マンション購入者向けの口コミサイトなどサービスを立ち上げた後、2005年、ミクル株式会社(http://mikle.co.jp/)を創業。ひらめき財団代表理事兼務。自律したい人々のための働き方を創造し、企業と個人の関係を変えていくことを目指す。

聞き手のつぶやき

 オフィスレスという働き方を、14年前から実践してきているミクルのこれまでの歩みにまず驚かされた。福井さんご自身の経験として語られた、「従来型組織で仕事をがむしゃらに頑張った過去があって、新たにミクルのような新しい働き方を理解する。それに適応するため自分を律することができるようになるまでは、この働き方は逆に苦になる」というお話が印象的であった。“自律”という言葉の体現は、これまで以上に個人の成長が求められるように感じた。
(聞き手:田口智博)

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