シリーズ「人と機械の相性」#3スタントマンも共演者も、主役が活かしてこそ
年末が近づくと今年はどんな1年だったか振り返りたくなるものです。昨年11月から12月にかけて企業の社会的責任(CSR)に関連するセミナーをいくつか聴講したのですが、まさに2010年のわが国のCSR注目トピックスをレビューするよい機会でした。名古屋で国際会議が開催された「生物多様性」のほか、新興国へのいっそうの関心を背景とした「アジア戦略」や「グローバルサプライチェーンマネジメント」。さらに昨年11月に発行された社会的責任に関する国際規格「ISO26000」の話題も取り上げられていました。
今回「人と機械の相性」というテーマをもらって思い出したのが、あるセミナーで語られていた社会貢献活動の話題です。これからの企業の社会貢献活動は、インプットやアウトプットではなくインパクト/リターンの質・量が重要であり、とくにアジア地域でそうした「コミュニティ投資」への関心が高い。またインパクトの明確化は活動の継続・改善に役立ち、アカウンタビリティの向上も図られる、という内容でした。たとえば、英国に本部を置く製菓会社キャドバリー社では、ガーナのカカオ農家の生活向上を目指して井戸を掘る活動を行っています。インプットは529,400ポンド(井戸319本)、アウトプットは井戸319本と直接的受益者6,380人、さらに井戸によって削減された水汲みのための歩く時間165時間/日と水に由来する疾病の軽減。そしてそこからのインパクトとして、投資1ポンド当たりのリターンが年132%と試算しているそうです(6,380人の50%が働きに出ることにより698,610ポンド/年のGDP貢献)。
第1回コラムで中間さんが紹介していた、オムロンの企業哲学「機械にできることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」は、機械導入によるインパクトをしっかり享受せよということでしょう。創業者立石一真の回想によれば、オートメーション事業に乗り出す際に出会ったのがサイバネティックス(自動制御学)であり、その提唱者であるノーバート・ウィーナー博士の著作『サイバネティックス』が1948年に刊行された際、「この科学が応用されたら機械に仕事を取られて労働者は失業してしまう」とアメリカの労働組合はたいへんな衝撃を受けたのだそうです。「従来の仕事がなくなる」はアウトプットどまりであり、そこから「人間にしかできない仕事・活動に取り組む」のがインパクト。「人と機械の相性」または「人と機械のベスト・マッチングの尺度」は、人間がこのインパクトをいかに生み出せるかによって決まるのではないでしょうか。
また、機械に代行させることで人間は新たに違うことを行うという役割分担型のインパクトとは異なる、機械のはたらきそのものが人に作用してインパクトにつながっていく場合もあるでしょう。前回の田口さんのコラムは、その可能性を示唆しています。人と機械の関係の最適解を見出す大前提に人がお互いを慮る社会の存在がある、と結ばれていましたが、エスカレータの速度変化を通じてお年寄りへの配慮を感じ取るように、逆に機械の存在が他人を慮るきっかけになる場合もあるかもしれません。
アイロボット社の掃除ロボット「ルンバ」のウェブサイトに、モニターからの面白いコメントがありました。ルンバが動きやすいよう床に物を置かないようにする習慣がつき、常に部屋が片付いている状態になったというのです。「もう自分で掃除すればいいのに」というツッコミはおいといて、機械と共生することで自分や暮らしがよい方向に変わる、そういう機械との関係は楽しいだろうと思います。人目にはふれないようなものも含め、私たちの生活にはさまざまな機械が存在しています。「楽しく快適な生活や社会づくり」というインパクトを引き出してくれるような機械との出会いがふえていくと嬉しいものです。