COLUMN

2010.09.01中野 善浩

シリーズテーマ「予兆」#5MICEという業務系から感動が広がってゆくか

 前回コラムで紹介があったように、情報の受発信を活性化するITツールが次々と登場してきている。従来から指摘されていることだが、ウェブなどの非対面でのコミュニケーションが活性化すると、並行して、対面のコミュニケーションも求められるようになる。おりしも今年は「日本MICE(マイス)イヤー」。MICE。まさに対面でのコミュニケーションの場である。

 MICEとは、企業などの会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、学術会議や国際会議(Convention)、イベントや展示会(Event/Exhibition)などを総称するもので、比較的新しいビジネス領域である。MICEは、主に観光地で開催されることから、観光のひとつの分野と見られがちだが、新た商機や展開を生み出すことを目的としたビジネスである。例えば、企業のセミナーや学術会議では、教育研修や情報交換を行うことを第一義の目的とするものの、対面でのやりとり、人脈形成や次なる展開を生み出すことを最終目的としている。インセンティブ・トラベルの狙いは、みなと一緒に仕事への意欲を改めて高めることであり、展示会は、出展者と参加者の双方に新たな商機を提供するために開かれる。
 MICEは成長分野と目され、各国で積極的な誘致が行われている。世界全体の市場規模は30兆円だそうだ。ところが日本は、この成長分野への対応に出遅れた。そこで本腰を入れるため、2010年が「日本MICEイヤー」とされたのである。

 MICEを実施するには一定規模以上の会議施設、プレゼンテーションのための設備、宿泊施設などが必要で、MICE主催者の目的に応じて、円滑に利用できることが求められる。
 しかし近年は、他では経験できない独自プログラムの提供も、MICE誘致の大きな条件とされてきた。例えば、異国の会議などに参加し、現地の本物の文化に触れたり、現地ならではの自然環境を体験する。それらは遠方から参加者を集める要因になり、参加者の感動や精神的高揚を引き出すことができれば、彼らの鋭気が養われ、創造性を刺激し、それが新たな展開に結びつく。

 海外ではMICEを扱う専門エージェントもあり、例えば、ウェブ検索最大手のG社も、専門エージェントに、会議の企画・運営をアウトソーシングしている。世界各国で活躍するG社の主要スタッフが、どこで集まって会議を開くか。どのような施設を利用し、どのようなホテルに泊れば、刺激的で、しかもアットホームな雰囲気のなかで、充実した会議が開けるか。地球環境への配慮にも大きな重点を置くG社として、移動にともなう二酸化炭素排出量を、どうやって最小化するか。
気持ちよく、成果を生み出すことのできる会議。それは必ずしも大型施設の整った大都市でなくても開くことができる。ホスピタリィがあり、そして感動や精神的高揚を提供できれば、小さな町でも開催できる。やがてG社の世界会議が、日本の田舎町で開催されることだってあるだろう。

 大きな物量によって、感動や精神的高揚を提供することもできる。しかし小さく、ユニークであるからこそ得られることもある。知や関係性がますます重要になると言われており、MICEのような出会いをとりもつ場は増えてゆくだろう。携帯電話やコンピュータは、初期段階では業務系用途で市場を形成し、やがて生活のなかに広がっていた。同じように感動の出会いの場は、MICEという業務系分野から生活のなかへと広がってゆくだろう。多様なビジネスチャンスが生まれると思う。
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