シリーズテーマ「予兆」#1i にみる未来の予兆~ハッピーでヒューマンな自律社会へ~
「幸せ」をテーマに3ヶ月間続けてきたリレーコラムはいかがでしたか?私は、この間「幸福度指標」について考え続けていました。特に、そのリスクへの心配を強くしていました。社会のグローバル化やデジタル化の一側面かもしれません。とにかく「定量化」、「数値化」、「見える化」が求められる昨今の世の中です。これらは目標と現状のギャップ、すなわち問題を明らかにするための「効率的管理」の基本です。
しかし、「幸せ」も同様に「管理問題」として解決を図ればよいのでしょうか?すべきでしょうか?そんなことを考えていたら、新政権からは「最小不幸社会」の実現が打ち出されました。やはり「測る」対象、コントロール可能な幸せ発想です。そこで、私は当面「測れない価値」という発想から、未来への予兆を見つけてみようと決めました。一つのモノサシを当てて測れるものなんて、豊かな未来可能性のごくごく一部でしかないわけですから。
そんなこともあって、次のテーマは「予兆」です。私たちの研究対象である「未来」は不確実です。しかし、未来を洞察すべくグッと、ジッと目を凝らすと、日常の中からも「予兆」が見つかります。予兆探しを楽しめる人、考現学センスのいい人、突飛過ぎず陳腐でもなく、いい塩梅で予兆と未来をつなぐ人、HRIの研究員はかなりそういう人たちです。きっと、同じモノサシでは測れない、おもしろく、それらしく、意外だったり、考えさせられたりする予兆を紹介してくれるでしょう。
と、お題を投げて終えるつもりでしたが、少し私もつぶやいてみます。
iPad人気は上々のようです。私も使ってみたいのですが、まだ手に入れていないので、iPad自体から予兆を見つけることができません。しかし、iBook,iPodなどアップル社の"i"シリーズをはじめ、私は世の中の"i"の増殖が気になっています。
時代を遡ること60年代から70年代の高度経済成長社会、私たちの親世代の欲望トレンドは、「Our(私たちの)からMy(私の)へ」だったのではないでしょうか。生まれ故郷を後にして大都市でサラリーマン生活を始めた巨大な一群が、第二の我がふるさとを欲し「マイタウン」、我が家を欲し「マイホーム」、そして我が移動手段「マイカー」を欲しました。これらの"My"は、それ以前のムラやイエの"Our"の縛りから逃れるべく欲したものと見えます。これらを「戦後昭和の3マイ欲」と呼んでおきます。しかし、これらの、まち、家、自動車、ついでに電話を加えても、"Our"のダウンサイジング程度の"My"でした。そして70年代から80年代、この"My"モードは所有だけでなく、"ミーイズム"と名付けられた自己チュー化に進展しています。たぶん、団塊世代から新人類世代のみなさんまでは、少なからずこんな"Our","My","Me"という「一人称単数化」と「所有から目的への私」の流れの中で人生前半を生きてきましたね。自分を振り返るとそんな感じです。
そして、21世紀が近づいてくると、この"My"や"Me"のトレンドは、より個別性を強調する"Personal"(個)に向かっていきました。「パソコン」、「ポケベル」、「携帯電話」が普及し、仕事やコミュニケーションの作法が急変します。「コンビニ」によって生活消費のスタイルも、よりパーソナルになりました。さらに、ウォークマンに代表される携帯AV機器によって、ミニコンポやラジカセ時代より一層「マイソング」化が進み、好みや趣味のパーソナル化も加速されました。
そして最近、巷でやたらと目につくようになったのが"i"ではないでしょうか。この"i"は、「私」だけでなくインターネットだったりインテリジェントだったりもしますが、アップル社の"i"商品シリーズ、docomoのi-mode、三菱自動車のi-mievやトヨタのi-swingといったパーソナルモビリティ、これらは明らかに「超パーソナル化」に向かう、社会の「"i"(私自身)」化の予兆のように見えるのです。
このような"i"化の先にある社会はどんなものなのでしょう。さらに、"Cell"や"Gene"を意識した世の中に進むのでしょうか?そんな時、私はあるSFアニメ映画を思い出しました。29世紀、人間は汚染され尽くした地球を捨てて宇宙船内に住まうという舞台設定のディズニー映画「WALL・E」です。ご覧になった方、どうでしょう?完全にコントロールされたビークル上で人間らしさなど微塵も感じられない毎日を送る未来生活は、私には29世紀のモダン・タイムスのように見えました。さらには、快適生活追求の果てに「パーフェクト・コクーン生活」みたいなカプセル内でじっと一生を過ごす姿まで想像してしまいます。
こんな未来、こんな便利で快適な未来を、私たちは望んでいるのでしょうか?いや、そんなことはないはずです。WALL・Eたちは"i"ではなく「愛」の価値に途中で気づきます。私たちも急速に進む"i"化一直線の未来から、舵取りする必要がありそうです。私は、それは"You"(あなた、あなたたち)の発想かもしれません。これまたYoutubeなど、そこここに"You"化の予兆が見つかります。"You and I"の未来、友も愛も数値化困難なものですが、ハッピーでヒューマンな自律社会には不可欠だと思います。センシング&コントロールのオムロングループの未来研究組織だからこそ、そんな予兆を嗅ぎ取り、生み出し、提案し続けられればと思っています。
(つぶやきどころではなくなりました。深謝)