COLUMN

2010.05.01内藤 真紀

シリーズテーマ「幸せ」#3『幸福な王子』にみる幸せのカタチ

 『シンデレラ』と『幸福な王子』。不幸な境遇でありながらも、生来の美しさと魔法使いのおかげで王子と結婚し幸せに暮らしたシンデレラ。病気や貧困に苦しむ市民に身を捧げることで身は滅びるが幸せを得る幸福な王子。前回コラムの、遺伝要因・環境要因・自発的にコントロールできる要因の3つで幸福度を説明する「幸福の方程式」の話から、ふとこの2つの童話を思い浮かべた。さしずめシンデレラは遺伝・環境中心、幸福な王子は自発的な行動中心、といったところだろうか。

 さて、先日聞いた日本理化学工業㈱大山泰弘会長の講演のなかに、「幸せ」に関連するエピソードがあった。
 チョーク製造でシェア№1の同社は、社員の70%が知的障害者という点でも有名だ。しかし、障害者を雇いはじめた当初は、障害者が楽しそうに工場に通ってくることが不思議だったという。わざわざ働かなくても、福祉施設で暮らしたほうが幸せなのではないかと思っていたからだ。そんな折に禅僧に会う機会があり、その疑問を口にしたところ、思いがけず「幸せとは、①人に愛されること、②人に誉められること、③人の役に立つこと、④人に必要とされること。仕事によって②③④が得られるのです」という答えが返ってきた。大山会長はその言葉に深く納得し、働くことは幸せを求めることであり、企業は社員が幸せを求める場でもあると考えるようになったという。

 この「幸せを得る4つのポイント」には、姿勢や行動などに対してプラスのフィードバックを得ること、人から自分の存在を認められること、という共通点がある。さらに、プラスのフィードバックをもらうような行動は、きっと相手に楽しさや喜び、幸せを感じてもらえることでもあろう。人を幸せにする行動を通じて自分も幸せになるのかもしれない。
 また、「愛する」「誉める」「感謝する」「頼る」ことで誰もが人を幸せにすることができる、ということも示唆されている。私たちの言葉や態度が、人を幸せにすることができる。それ自体とても楽しい気分にさせてくれるばかりか、幸福感の伝染力を感じさせてくれる。表彰や顕彰を受けた人が、周囲への感謝を口にするのはよく見られる光景だ。誰かを誉めると誉められた人が誰かに感謝をし、また感謝された人が誰かに感謝する―こうして、幸福感は人から人へ伝染していくのだ。

 『幸福な王子』では、王子は苦境にある市民に宝石や金箔を役立ててもらうことで幸せを感じる。宝石を手にした市民はそれを使うことで幸せを得るだけでなく、自分のことを気にかけている存在に気づく幸せも得る。ツバメは王子の手足や目として必要とされることで幸せを感じる。さらに、宝石を得た市民は感謝の気持ちを広げ、宝石のおかげで仕事に打ち込んで役に立ったり評価されたりという結果を残しただろう。
 子どものころは、幸福な王子よりシンデレラのほうが断然幸せだと思ったものだ。それが、だんだんと幸福な王子の「幸せ」を理解し共感できるようになった。もちろん、シンデレラの「結婚=幸せ」が信じられなくなったからではありません。念のため。
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