GAH(Gross Arakawa Happiness:荒川区民総幸福度)。-前回のコラムで中間さんが取り上げた荒川区の取組みに関心を持ち、区のサイトを訪れてみました。荒川区では、「真の豊かさにつながる区民の幸福度の向上こそが区政の役割である」という考え方のもとに、GAHを区政の尺度として取り入れようと、調査・研究を進めているのだそうです。区の世論調査にも、「GAH」に関連する項目として「幸福度」や「生きがい」「地域とのつながり」「安心・安全」「健康」などが盛り込まれています。行政の活動の焦点を「幸福度」に置き、漠然とした概念としてではなく、具体的な施策に反映させていこうという積極的な姿勢に、これからの取組みへの期待が高まります。
「幸せ」をもたらす「社会」のあり方が模索される一方、心理学の領域では、長く「個人」の視点からの幸福感の研究が行われてきました。そのひとつに、セリグマンらが提唱した「幸福の方程式」があります。
H=S+C+V
[持続的な幸福度=遺伝的要因+環境要因+自発的にコントロールできる要因]
H (Enduring Happiness:持続的な幸福度)とは、刹那的な満足感ではなく、長期にわたって持続する幸福度を指すものです。セリグマンらは、持続的な幸福度はS・C・Vの3つの要因から成ると考えました。S(Biological Set Point)は、個人が生まれ持って備えている遺伝的要因を、C(Conditions in Your Life)は、性別や職業、経済状態、健康状態、婚姻状態等、現在置かれている環境的な要因を指すものです。そして、それぞれが持続的な幸福度に寄与する割合はSが50%、Cが10%とされています。では、残りの40%は何なのか・・・?というと、V(Voluntary Activities)-自発的にコントロールできる要因であるといいます。過去の出来事をどのように捉えて、どんな未来を思い描くか、周囲とどのように関わっていくのか-そんな、「姿勢」のあり方を指していると言えそうです。
いかがでしょうか、S・V・Cそれぞれに割り当てられた数字を、大きいと感じるでしょうか、小さいと感じるでしょうか。
セリグマンは「ポジティブ心理学」を提唱し、楽観主義的な考え方のもつ可能性を説いた心理学者ですから、ここでも、人生の中で自分の力ではどうすることもできない要因(SやC)に対して、自発的にコントロールできる要因(V)に目を向けることの大切さが強調されています。しかし、もちろん、これは「幸せ」をもたらす「社会」のあり方を考え、C(環境要因)の向上を目指そうとする動きを過小評価するものではありません。一人ひとりが前向きに、自律的に「幸せ」に向かおうとする姿勢と、社会全体でそれを支え合う取組みの相互作用によってはじめて、確かな「幸せ」を手にすることができるのではないでしょうか。