シリーズテーマ「働き方」#6試行錯誤できる働き方を
前回はアメフトの話題が出た。野球のように一人のプレイヤーがオールマイティーであることが良しとされる競技と比べて、ひとつのスキルをとことん磨いて武器にできるのがアメフトの面白さだ。パワーとスタミナがあればライン、瞬発力とスピードに優れているならランニングバック、戦略力・判断力を持ったブレーンであればクオーターバック、という具合にだ。そういった個の長所を伸ばし活かし合ってプレーするアメフトは、職場での働き方にもどこか通じる。
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20代後半を迎える同世代の友人のあいだでは転職ブームが続いている。転職理由は、端的に言えば「ギャップ」のようだ。仕事内容、報酬、企業としてのゴール、人間関係、ワークとライフのバランス...と具体的理由は人それぞれだが、要は"理想"と"現実"とのギャップが職を変える理由になっている。
どうしてギャップが生まれるのか。その最たるものの一つには、一括型の新卒採用システムがあるだろう。社会経験も乏しい中で迫られる"自己分析"やおぼつかない将来設計、のべにしても数時間程度の面接、量的にも質的にも限られた企業情報――。こういった新卒の就職活動の一連の流れを見てみても、「新卒採用」とは"入ってみないとわからないことだらけ"の採用方法である。
逆に言えば、"入ってみて初めて気付くことが多い"というのが新卒採用である。企業に就職した新卒者は、予想以上の社会の厳しさ、自分の甘さ、やりたかった仕事と現実との落差等々のギャップにダメージを食らうこともあるだろう。だが一方で、自分としては大して重視していなかったちょっとしたスキルが、思いのほか仕事では重宝されたり、興味の範疇になかった担当業務で思いがけず面白い仕事を発見したり、これまで身近にはいなかった「目標にしたい大人」に出会えたりという "前向き"なギャップもあるだろう。
そのような"前向きなギャップ"を理由に転職をする者たちは、新卒時代の就活の頃にはなかった「強気」や「軽やかさ」がある。今年転職した友人の一人は、新卒で入ったメーカーで環境技術設計に関わる中で原子力発電に魅せられて、フィールドを変えてプロとしての道を極めようとしている。また別の友人は、SEとしてプログラミングを一通りマスターするうちに、「システムを『つくる』より『使う』ことをやりたい」という思いを強くして、いまは輸入業者の広報を担当している。その様子は、磨いたスキルでより面白いプレーができそうなチームを求める貪欲なアメフト選手的でもある。
こういった自信とも言うべき「強気」、それに裏打ちされた「軽やかさ」は、働いてみてこそ得られる大きな収穫だろう。学生時代までは、学校や家族、せいぜいアルバイト先といったごく限られた社会との接点しかないまま育ってきた今の多くの若者にとって、社会に出て働くということは、自己を再発見する場、人生を再考する機会として、極めて大きな意義を持っている。
自分には何ができるのか。自分は何がしたいのか。働く、という実体験から培われる能力や自信、理想といった前向きなパワーを活かしていく土壌づくりのためには、働き方はもっとオープンになっていく必要がある。新卒にこだわらない自由な会社への出入りの仕方をもっと一般化させることも一つだろう。また、終身雇用を前提としない企業が増えることで、より流動的な働き方、また企業にとっても新陳代謝が活発な環境を生み出すことにつながるのではないか。
そんな働き方の"CHANGE"によって「自分で選べる」働き方こそが、仕事と人間との一番幸せな関係に違いない。