COLUMN

2009.04.01田口 智博

活気を生み出す交通サービス

 地方の高速道路料金が土日祝の休日に上限1000円となる割引制度が、3月28日から全国的にスタートした。割引の対象については普通車以下で、なおかつ自動料金収受システム(ETC)の搭載車となっている点に注意が必要ではあるが、これから春の行楽シーズンに向けて、こうしたサービスを利用して各地へ出掛けることを考えている人も少なくないに違いない。

 今回の施策は景気対策の一環として、昨今の低迷する経済情勢のもと、人々が車を使って旅行などの遠出をすることで、経済に好影響をもたらすことが期待されている。そうした中で、交通サービスについて考えてみると、そこには、高速道路料金割引のようにリーズナブルな価格設定等による利便性はもちろんのこと、安全性、快適性などの向上が一般的に求められるものである。一方で、最近では環境問題への意識の高まりもあって、省エネ、低環境負荷などの対策も講じる必要が出てきている。

 そうした交通サービスに関する取り組みとして、以前に韓国・ソウルの様子を実際に目にする機会があった。ソウルではバスを都市内交通の中心に据えて、市内中に張り巡らされた路線網を走行するバスが、多くの市民の移動手段として盛んに利用されている。そして、その大きな特徴は、バスが車道の専用レーンを走行することで、渋滞の影響を受けることなくスムーズに運行されていることである。また、運賃は、初乗りが約600~1000ウォン(日本円 約40~70円)で、移動距離10kmまではその金額で乗車できるという非常に安価なものとなっている。現地では利便性の高いバスが頻繁に行き交う勢いが、まさに人の動きを活発にしているようにも感じられた。さらに、ソウルでは、市民のバス利用が進むことで市内の自動車交通量が削減されるとともに、環境に配慮したLPGバス車両の導入などによって低環境負荷・省エネも同時に進められている。

 こうした事例からも、交通サービスは、人々の生活、環境・エネルギー問題まで幅広い面で関わっていることがわかる。この事柄に関連して、少し前に参加したエネルギー需要をテーマに掲げたシンポジウムのパネルディスカッションで、「今後のエネルギーの持続性を考える上で、交通サービスを減らして省エネを図ることは可能か?」という問題提起がなされる場面があった。それに対して、交通分野の専門家からは、これまでの社会の流れから人々の交通サービスへの需要は減ることはなく、交通システムの整備によって利用者の行動パターンを変えるなど上手な利用方法を考えていくことが今後より重要になってくるという回答が聞かれた。とりわけ、交通サービスの需要が減らない理由として、人にとって動くことは健康の基本であるため、常に移動することへの潜在的な欲求があるからだという。これには、多くの人は、健康への意識の有無は別にしても、全く移動しない生活は考えられないことから納得できるのではないだろうか。

 このように人々の移動に対するニーズに応えるために、交通の仕組みやシステムの整備はこれからも改善を進めることが大切になってくることがわかる。そして、従来、交通は単なる移動の手段として考えられがちであったが、今後、社会にさらに活気を生み出し、人々が移動すること自体を楽しむことができるような交通サービスの提供を望みたい。
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