COLUMN

2008.12.01田口 智博

センシング技術にみる目の付けどころ

 最近では、センシング技術というものが、ますます重要視される時代となってきている。たとえば、省エネに向け学校や工場などの施設における電気エネルギーの使用量の計測、また、安全に向けクルマ運転時の衝突等の危険の検出など、センシング技術の恩恵を受ける場面は数多く存在する。そして、そうした様々なシーンで活躍するセンシング技術の中の一つに、リモートセンシング技術というものがある。そもそも、リモートセンシングとは、地形や地物、物体などの情報を遠隔から取得する手段で、一般的には人工衛星や航空機などから地表を観測する技術を指している。

 このリモートセンシング技術は、現在、農業・漁業・環境・災害・GISなどの様々な産業や分野において利活用の取り組みが進められている。たとえば、農業では、高品質な農作物の生産にこの技術が用いられている。お米の場合、一般的にたんぱく質が高くなると飯米が固く感じられ、たんぱく質含有率によって高品質米と一般米に分けられる。そうした中、リモートセンシング技術で得られたデータから、水田ごとの収穫前のお米のたんぱく質含有率を算出することで高たんぱくの箇所が特定でき、次の年の品質向上に向けて土壌改良など栽培管理の改善に役立っている。また、小麦の場合、栽培管理もさることながら、成熟の度合いを同様に得られたデータから把握することで、適切な収穫計画を立てることができる。これによって、品質向上とともに、北海道のような大規模農場では、効率的な収穫機械の運用による機械コストの削減、また同一の成熟期での収穫により小麦の水分のばらつきが少なく乾燥用の燃料代節約など様々なメリットが出ている。

 さらに、最近では一般的になっているGIS(地理情報システム)の分野においても、リモートセンシング技術で取得された画像などの情報が、インターネット上のGoogleマップに見られるようなツール、また、地震等の災害時の被害状況の把握などにも利用され、目にする場面が多くなっている。こうした現状を見ているだけでも、センシング技術の進歩には目を見張るものがあることがよく分かる。

 そんな中、以前、実際にリモートセンシング技術の利用推進に取り組んでいる方とお話をする機会があった。その際、その方が「日本がリモートセンシング技術の平和的な利用に積極的に取り組んでいることは世界に誇れることだ」と言われたことが印象に残っている。その言葉にあるように、もともとリモートセンシング技術は軍事分野での偵察などを目的に開発された技術であるが、現在は様々な産業で見られるような平和的な利活用も進んでいる。日進月歩で技術の進歩が進む中、実際にそれをどのように生かすかは、それを使う側の判断でいかようにも変わってくるということに気付かされた一言でもあった。

 先に述べたように農業を始めとする様々な分野で利用が進む中、リモートセンシング技術は、現在のグローバルで問題となっている食糧問題や資源問題に対して、効率的な作物の生産や資源の探索などで貢献できる部分が少なからずある。センシングという「モノを検知」する技術が進歩していく中で、それを上手く活用していくためには、同時に、物事へ取り組む際の目の付けどころが大切であることを強く感じた。
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