COLUMN

2008.03.28鷲尾 梓

スウェーデンの男性を動かした『パパの月』~父親の『育休』を考える~

 「子どもが生まれたら、7ヶ月間仕事を休んで育児に専念しようと思っているの」-数年前から交流のあるスウェーデンのシンクタンクで働くターニャさんが、大きなおなかをさすりながら言った。「7ヶ月間・・・意外と短いな」と思っていると、彼女はこう続けた。「私が仕事に復帰するタイミングで、今度は夫が7ヶ月間の育児休業を取って、バトンタッチするのよ」

 「7ヶ月間・・・長い!」そのとき、私は思わずこう思った。同じ7ヶ月という期間なのに、男性の場合だと長く感じてしまうのだから、不思議だ。ちょうどその頃、日本人の男性を対象に「男性の仕事と育児」についてのインタビューをしていた私には、「7ヶ月間も休むなんて無理!」という彼らの顔が浮かぶようだった。

 しかし、スウェーデンの男性が昔から育児休暇の取得に積極的だったかというと、実はそうでもないのだ。ターニャさんの親世代では、育児休業(育休)を取るのはもっぱら女性だった。たった一世代で大きく状況を変えるきっかけのひとつとなったのは、「パパの月・ママの月」と呼ばれる制度の導入だ。

 スウェーデンでは、所得保障を受けながら育児のために休業できる期間が、両親それぞれに240日分保障されている。そして、このうち180日分は他方に譲ることのできる期間、60日分は譲ることのできない期間となっている。これを整理すると、次のようになる。

◇ 母親に権利のある期間:240日
    うち、父親に譲ることができる期間:180日
    うち、母親しか取得できない期間:60日=「ママの月」
◇ 父親に権利のある期間:240日分
    うち、母親に譲ることができる期間:180日
    うち、父親しか取得できない期間:60日=「パパの月」

 つまり、父親・母親それぞれ60日分は、本人が取得しなければ権利が失われてしまうことになる。この期間は当初30日間だったため、「パパの月・ママの月」と呼ばれている。「パパの月・ママの月」が導入されたことで、育休に消極的だった父親たちも、「取らなきゃ、もったいないかも」と、動き出したということなのだろう。そして、それは同時に、周囲に対する「育休は、父親にとっても当然の権利」「育児は、夫婦で協力しあうもの」というメッセージにもなったのだ。

 日本でも、「一定の期間、男性の育休を義務化すればいいのでは」との議論もある。育児にどのように関わるか、育休を取るかどうか、といったことは、本来一人ひとりが主体的に決めるべきもので、「義務化」には賛成しかねるが、「パパの月」のように、取得へのインセンティブや周囲の理解を促す何らかの工夫は必要なのかもしれない。
 
 男性も女性も同じように子育てに関わり、周囲もごく自然にそのことを受け止めることができるスウェーデンの現状を目の当たりにすると、「日本とこんなにも違うのか」と感じずにはいられなかった。しかし、それと同時に、「一世代でこれだけ変われるものなのだ」という希望も感じる経験でもあった。

 ターニャさんの子どもが大きくなる頃には、スウェーデンの男性の子育てを取り巻く環境はさらに変わっているだろう。その頃には、日本の父親も当たり前のように、母親と育休を「バトンタッチ」するようになっているだろうか。
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