COLUMN

2007.09.01鷲尾 梓

今、子育てをめぐる議論に欠けているもの

 「24時間保育サービス開始。お母さんの代わりに保育園の送り迎えをし、夕食の世話もします」。自宅のポストに入れられたダイレクトメールの中の一枚に目がとまった。

 仕事をしながら子育てをし、その両立に苦心している人にとって、このようなサービスの登場は心強いだろう。子育てをめぐるサービスは、ニーズの拡大・多様化にともなって充実してきている。 ・・・しかし、このようなサービスが充実し、子どもを預けて働ける環境が整えば、その先に豊かな暮らし、社会が描けるのだろうか?私は、漠然とした違和感を感じていた。

 そんな折に出席したシンポジウム「ワーク・ライフ・バランスと男女共同参画」(2007年8月28日:独立行政法人経済産業研究所主催)での池本氏(株式会社日本総合研究所)による問題提起は、とても共感させられる内容だった。それは、「子育ての負担を軽減する方向だけでなく、豊かな子育ての時間をどう保障するかの議論が必要。子育てを負担・義務としてではなく、自由・権利としてとらえる視点が必要ではないか」というもの。私が感じていた違和感は、子育てをめぐる議論や施策が「負担の軽減」の方に偏っているのではないか、ということだったのだ。

 仕事に、家事に、忙しい生活を送る毎日の中に、「子育て」という新たな要素が入ってくる。それは確かに「負担」であり、子育ては、途中で放り出すことのできない「義務」でもある。しかしそこには、子どもをもつことでしか得られない豊かさも、新たな世界の広がりの機会もあるはずだ。それはあたりまえで、敢えて口に出す必要のないことと受け止められてきたのかもしれない。しかし、核家族化がすすみ、地域のつながりが失われる中で、自身の子ども時代から自分が親になるまでの間に「子どもが育つ」ということを目の当たりにする機会は確実に少なくなっている。その中で、「子どもをもつ」ということを具体的にイメージしたり、その豊かさを感じ取る機会は限られてきているのではないか。そのような中で「少子化対策」をすすめようとするならば、まずは、「子どもをもつことが楽しみ」と自然に感じられるような環境づくりが必要だ。

 子育ての時間を確保し、豊かなものにするという視点に基づく施策や施設・サービスの事例として、池本氏は、親が保育活動に参加する保育施設(フランスの「親保育園」、イギリスの「アーリー・エクセレンス・センター」、ニュージーランドの「協働保育活動プレイセンター」など)や、在宅で育児をする親に対する「在宅育児手当」(フィンランド、ノルウェー)、柔軟な育児休業・短時間勤務制度などを挙げている。日本でも、「負担をどう軽減するか」という発想だけでなく、「どうすればより豊かな時間がすごせるか」という発想に基づく施策やサービスが充実していくことを期待している。(鷲尾梓)

<参考>
シンポジウム「ワーク・ライフ・バランスと男女共同参画」(2007年8月28日:独立行政法人経済産業研究所主催)概要
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