COLUMN

2021.09.06田口 智博

心が資本となるこれからの時代

―「分身ロボットカフェ」にみる誰も取り残さない未来の姿―

 コロナ禍で在宅勤務をはじめ外出がままならない状況ではあるが、“百聞は一見に如かず”ということで、最近話題となっている「分身ロボットカフェ」(※)を訪ねてきた。「分身ロボットカフェ」とは、(株)オリィ研究所が主宰・運営する、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病や重度障害で外出困難な人々が、みずからの分身となるロボットを遠隔操作し、サービスを提供する側のスタッフとして働くカフェだ。
 東京・日本橋エリアにあって、実験店舗と位置付けられるこのカフェが目指すのは、「動けないが働きたい」との意欲ある外出困難な人たちに、雇用の機会を生み出す。また、それとともに、人々の社会参加を妨げている課題をテクノロジーによって克服することにあるという。

 実際にカフェの店内では、「OriHime-D(オリヒメディー)」と呼ばれる、遠隔での接客やモノを運ぶといった、身体的な動きの伴う労働作業を可能にするロボットが、テーブルの間を行き来している様子が真っ先に目を引いた。製造や物流の現場などでは、搬送ロボットが床に貼られたテープを頼りに、ルートを外れることなく移動している光景が見られたりする。まさに、そうしたシチュエーションが身近なカフェの場に実装されて、そのロボットは“分身”という名称の通り、外出困難な人々がパイロットとなって自由に動き回り、見事に仕事をこなしている。

 店内で過ごしていると、ちょうど座席の近くを通りかかった“ココにゃんさん”という分身ロボットパイロットの方から、「今、お話をしても大丈夫ですか」という声掛けをもらった。会話は「ご来店は初めてですか?」や「どこからお越しですか?」といった日常の会話にはじまり、お店のサービスや店舗入り口付近に設置されているコーナーの紹介など、初めて訪問する側にとってはとても気さくで、有り難いおもてなしであった。
 コロナ禍になって以来、普段の仕事でもすべてオンライン上の対応で完結するということも少なくない。そのせいもあるのか、こうした分身ロボットを介した人とのコミュニケーションであっても、それほど違和感なく話は弾む。加えて、会話のやり取りの最中には、分身ロボットパイロットの方が、何らかの事情で外出困難な状況に置かれているというのをどこか頭から忘れ去り、至って自然なやり取りが交わせることにも気づく。

 遡ること3年半程前、未来社会を考える一環で、オリィ研究所代表取締役CEOの吉藤健太朗さんにお話を伺う機会があった。その当時は、テレワークはまだまだ浸透せず、他の人に迷惑をかけるような働き方として扱われていたにも関わらず、吉藤さんは「ロボットを通して、人はテレワークをするようになる」といった発言をされていた。また、高齢の方や障がいのある方が活用できるツールづくりを目指しているという文脈で、「体が資本から心が資本の時代、心が自由になる時代を作りたい」とのお話をされていたことが思い出される。

 これまで障がいがあると、世の中ではどうしてもサービスを享受する側という印象づけが強くなされていた。それに対して、「分身ロボットカフェ」では、障がいを抱える人が、その立場を変えてサービスを提供する、おもてなす側として、活躍をされている状況が生み出されている。人がテクノロジーを上手く使いこなし、置かれた境遇や状況に囚われずに、各々役割をもてる社会の具現化が、「分身ロボットカフェ」という実験店舗でなされている。私たちに多くの示唆を与えてくれるこうした場が、カフェという気軽な空間であることも、あらためてその素晴らしさを感じさせてくれる。

 HRIでは、そんなオリィ研究所代表取締役CEO・吉藤健太朗さんをゲストに迎えるウェビナーを9/28(火)に開催予定です。また詳細は後日、こちらのサイト上でのお知らせをチェックしてみてください。
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