COLUMN

2021.06.01小林 勝司

自然社会とノヴァセン

SINIC理論を下敷きとしたオンラインイベントでは、多くの参加者から2033年以降の未来社会である自然社会への強い関心が寄せられた。恐らく、SINIC理論では、自然社会から2周期目がスタートすると位置付けられていることから、期待と不安が交錯するのであろう。また、“ノーコントロールの自然社会へ移行する”との予測も、人々の好奇心と創造力を大いに掻き立てているに違いない(※)。

先日、「ガイア理論」の提唱者として世界的に著名な科学者、ジェームズ・ラヴロック氏の著書『ノヴァセン』(NHK出版)が発刊された。「ガイア理論」と言えば、同氏が1960年代に提唱した、地球と生物が相互に関係し合い環境を作り上げる、ある種の巨大な生命体と捉えた仮説である。本書では、この仮説に基づき、人類が地球(ガイア)に君臨し、地球環境に多大な影響を及ぼしてきた産業革命以降の時代“アントロポセン”が終焉し、超知能と人類が共存する時代“ノヴァセン”へ移行することが予測されている。

興味深い点は、この超知能(本書ではサイボーグと呼んでいる)を、人間の“子孫”と捉えている点だ。人間よりも遥かに高い知性を持ったサイボーグが、その高い知性であるが故に人間と有機的世界の必要性を認識し、地球を冷涼に保ち、太陽からの熱をブロックし、未来の天変地異を防ぐなど、地球を維持するためのシステムを動かす存在になっていると予測する。そして、このサイボーグたちは人間のことを、ちょうど人間が(生命の源である)植物を眺めるかのように見つめているのだと言う。

シンギュラリティに関する従来型の議論では、人間の知性を凌駕した非有機的存在に、人間は淘汰されていくことが主な論点あった。他方、『ノヴァセン』では、人間の知性を凌駕した非有機的存在であるからこそ、人間と有機的世界の必要性を認識し、調和を望むという論考となっている。こうした視点は、テクノロジーの進化を人間の進化としてありのままに受容する、ある意味、ラヴロック氏ならではの自然社会観ではないだろうか。

人間が作ったシステムによる人間の“子孫”を信じること。自然社会のヒントがそこに隠されているのかもしれない。
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