COLUMN

2018.08.01田口 智博

人間中心とするイノベーションの土壌づくり

 6月下旬、ドイツ・ベルリンに出向く機会がありました。ドイツというと、日本と同じように「ものづくり大国」と呼ばれることが少なくありません。自動車や機械をはじめとする、主要産業の構造が日本と近いということ。その背景には資源の少なさという、こちらも日本同様の共通点が挙げられます。

 そうしたドイツですが、首都ベルリンは、2015年にベンチャーキャピタルによる投資額が、ロンドンを抜いて欧州圏でトップに躍り出ています。いま、起業家にとって活動しやすい環境として注目度が高まり、ベルリンには若者がドイツ内外から集う状況が生まれていると言います。
また、そうした地域性とも相まって、2012年からは、「Tech Open Air(TOA)」というテック・カンファレンスが開催されています。こちらは、世界で初めてクラウドファンディングによって開催に漕ぎ着け、話題となったカンファレンスでもあります。参加者同士が知識や発想を持ち寄り交換し合える触発の場をつくり、成長を促すイノベーション・ハブを目指すとされています。ここでも、さまざまな分野にわたる人々がベルリンに集う状況がみられます。

 今回の訪問では、TOA2018に参加すると同時に、ベルリン市内のコワーキングスペースやファブラボをいくつか実際に見て回りました。そこでは、人々が集うのはもとより、人と人とが繋がる場という印象を強く覚えることになりました。
たとえば、「AHOY!」というコワーキングスペースでは、フロアに一歩足を踏み入れると、カフェが中心と思えるような設計の施された空間が目に飛び込んできました。実際、施設のチーフ・オペレーティング・オフィサーのSam Jenkinsさんは、「コーヒーをサーブする場所が重要な人と人との出会いの場。だから、美味しいコーヒーが欠かせない」と真顔で説明をされていた様子が思い返されます。
 また、「Open Innovation Space」というファブラボでは、スタートアップの起業家や高校などの学生が集い、ファブラボスタッフの持つノウハウをしっかりと取り入れたプロトタイピングが展開されていました。施設のマネージング・ディレクターのDaniel Heltzelさんは、「人や組織の間でのノウハウのエクスチェンジがスムーズに行えるかどうかが、オープンイノベーションの実現を左右する」と指摘されるとともに、日本でのイノベーションに関する課題意識についても興味津々に耳を傾けられていました。

 モノやサービスの開発では、人間を中心とした設計といったことが当たり前になりつつあります。一方で、新たなモノやサービスを生み出す環境というところに目を向けてみると、そこで人が持つクリエイティビティや他者との関係性を育み、高めていくには、まだまだ適切に設計すべきことが多々あるのではないでしょうか。ベルリンにみられるような環境をベンチマークしつつ、日本でも地域ごとに特色のある、人が集い、繋がることにより生み出されるイノベーションへの土壌づくりを望みたいところです。
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