COLUMN

2018.06.01小林 勝司

若者と未来予測

2月よりHRIの一員となりました小林勝司と申します。どうぞ、宜しくお願い申し上げます。

未来社会を予測するヒントは、今の若者たちの姿に隠されている。何故なら、10年後、20年後、30年後の社会の中核を担うのは紛れもなく彼らだからだ。

とある調査によれば、ミレニアル世代(1975年~1990年初頭生まれ)やZ世代(1990年後半~2000年生まれ)と呼ばれる若者たちは、概ね「今を楽しみたいセルフィッシュ派」と「社会の役に立ちたいエシカル派」に分類されるのだという。その要因として、幼少の頃からインターネットやSNSを通じさまざまな社会課題を直視してきたことや、就職氷河期など景気の低迷を実感してきたことによる強い危機感が挙げられている。彼らは、いつ何が起きるか分からない、いつ死に直面するか分からないという通念を抱いており、その為、「生きているうちに自分のやりたいことをやっておきたい」と志向する層と「生きているうちに社会の役に立ちたい」と志向する層に2分化するらしい。私は、未来社会の牽引力となりうるのは、後者の「社会の役に立ちたいエシカル派」ではないかと考える。

理由は二つある。一つは、エシカルな意識は、グローバル社会が抱えるさまざまなパラドックスを解消する重要要素になり得ると考えるからだ。グローバル化が加速するにつれ、マクロレベルでのパラドックスはますます顕在化していく。政治的には、経済はますますオープンになるが、外交レベルでは国益を守るためにむしろ閉塞感が増していく。経済的には、さまざまな経済統合は進むが、国家間や地域間での経済格差はむしろ拡大していく。社会的には、グローバル化により普遍的な文化が生まれていくが、それに対抗するかのように伝統文化を重んじる動きが活発化する。いずれのパラドックスを解消するにしても、個々人が、倫理的、道徳的な意識を持つことは必要不可欠である。そう考えると、「社会の役に立ちたいエシカル派」の存在意義は、今後、ますます高まっていくことだろう。

二つめは、若者たちの「エシカルなこと=クールなこと」と捉える感性が、利他的な文化を醸成し得ると考えるからだ。景気の低迷を原風景とする彼らの価値観は、利益を追及することよりも、持続可能性の高い社会を望む傾向が強い。とりわけ、米国のミレニアル世代においては、お金やステータスを追求するライフスタイルから離れる傾向が顕著のようだ。しかも、インターネットやSNSを通じて人間関係を機能的に使い分け、多様性や個性を重んじる彼らは、人権や性別への偏見が少ない。また、消費行動においても、たとえ知名度の高いブランド品であったとしても、環境を破壊する素材で製造されているのであれば買え控えするなど、他者への見せびらかしを目的とした顕示的消費よりも、シェアリング、フェアトレード、クラウドファンディングといった利他的な消費行動を好む。恐らく、こうした価値観は、これからの社会全体をより高次元な欲求へと底上げしていくに違いない。

未来予測には、ありうる未来と、あるべき未来が存在する。ありうる未来とは、社会情勢の急変、経済の浮き沈み、テクノロジーのエクスポネンシャルな進化など、不確定な要素に基づく未来を指すが、一方、あるべき未来とは、あくまでも人間が倫理的、道徳的、哲学的なコンテクストを創造し、能動的に生み出す未来を指す。確かに、10年後、20年後、30年後の未来社会の中核を担うのはミレニアル世代やZ世代ではあるが、彼らの価値観形成に多大な影響を及ぼすのは、他世代である我々である。そう考えると、日々の自分自身の言動や行動は未来につながっていると考えることができ、自分自身が未来を創り出していると言って過言ではない。そんなこと日々感じなら、社会の役に立つ未来を予測して参りたい。
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