COLUMN

2018.05.01戸田 貴

爬虫類や動物レベルの脳との共存

AIやビッグデータ、IoT等目まぐるしく進んでいく技術に対して、使う側の人類は少しずつでも進化しているのであろうか、ふと考えてみた。なぜそんなことを考えたかというと、人類の進化と「脳」の関係についてある仮説を知る機会があったからだ。

人類の祖先とされる二足歩行のトゥーマイ猿人が生まれたのが約700万年から600万年前、その後進化と淘汰が繰り返され、20万年ほど前に現生人類ホモ・サピエンスがアフリカに出現している。その後の進化と発展についてはご存知の通りなので割愛するが、今回衝撃を受けたのは進化してきた私たち現生人類の「脳」についての仮説である。当然のことながら、猿人と今の人間の脳は賢さが違う。容量からしてサル同等の400cc位しかなかった猿人に比べ、約3倍以上、1350ccレベルまで増加している。

複雑な物事を論理的に思考し、理性的な行動が出来るまで進化したのが今の人間だと考えれば当たり前なのであろうが、そのご立派な脳が、実は複合体であり、その一部に動物や爬虫類レベルの機能が未だに残っているという仮説が説かれているのだ。

米国国立精神衛生研究所の脳進化学者ポール・D・マクリーン博士が提唱した「3つの脳の進化」の仮説がそれである。あくまでも仮説であり否定的な意見も出ているが、調べてみると極めて的を射ている説に思える。その説によれば人間の脳には「3つの脳」が同居しており、それぞれ人間脳、哺乳類脳、爬虫類脳という三層構造で構成されているそうだ。

1つ目の人間脳が一番進化している脳であり、論理的な思考で、創造的、また成長欲求を満たすため目的意識をもった理性的な行動がコントロールできる脳だ。大脳新皮質の右脳・左脳にあり、これこそ人間の脳だと思っていた脳そのものである。2つ目の大脳辺緑系にあたる哺乳類脳は、感情を司る脳であり快を好み不快を嫌うため、嫌なことからは逃げる特徴がある。そして最も古い脳とされるのが、3つ目の「爬虫類脳」だ。脳と脊髄をつなぐ脳幹にあたり、生命維持のための自己防衛本能を発動する役割を持つ。つまり考えも感情もなく、ただ生存に特化した脳であり、これが安全を担保するために新しいことを始めようとすると拒否反応を示し、困難を避けるために事を先送りする特徴を持つのだ。

これらを踏まえて自らの過去の経験と重ねてみると少々ゾッとする。新しいことにチャレンジして失敗してしまったことよりチャンスを前に尻込みしてしまったことへの後悔がいかに多いことか。また、当初の計画通りに進めることが出来ず、楽しいことに気持ちを持っていかれて仕事や課題を先送りしてしまったことも多々思い起こされる。これらを図らずも無意識のうちに操っていたのが爬虫類脳や哺乳類脳なのだろう。なぜなら、爬虫類脳と哺乳類脳の影響力は、人間脳に比べてはるかに大きく強いからだ。

私たちは、他の生物と異なり、理性的で、常に考えて行動していると思っていたが、人によってレベルは異なるにしろ未だ動物や爬虫類並みの「脳」の指示に従っていることに驚きを隠しえない。何百万年前から変わらないという意味では、この先もそう簡単に変わることはないであろう。

それでも、私たち人類はほんの少しずつでも意識して爬虫類脳、哺乳類脳を無視する、抑え込む、もしくは味方につける等の術を見つけて、未来を考えるための唯一の脳である人間脳を活用できるよう努力し続けなくてはならない。自戒の念も込めてそう思う次第である。

2045年、はたまたもっと早く到来するともいわれる技術的特異点、シンギュラリティを通り過ぎた後、ハラリ氏のホモデウスのように人が科学技術と融合することになれば、これらレガシーな脳機能とは完全に切り離されるのであろうか? 原始人から未来人まで、禁煙ひとつ出来ない爬虫類脳を持つ現代人が思いを馳せてみた。
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