季節が巡るのはあたりまえだと思ってきましたが、異常気象が多発する最近は、「ちゃんと、春は来るのだろうか?」と心配になったりします。しかし、今年も春は来ました。春夏秋冬という順のとおり、やはり春はスタート感に満ち満ちています。貯めていたエネルギーを噴き出させるような。
中でも、春の訪れを感じさせるのが梅や桜の開花です。最近では、開花の予測精度もかなり高くなっているようですが、開花という未来予測の精度は、いかにして上げられているのでしょう。好奇心が湧き上がり、桜の開花時期はどのように決まるのかを調べてみました。
まず、桜の木の一年間をたどってみます。春の訪れと共に花は開き、散った後に葉が出てきて、夏の盛りの桜の木は緑の葉で覆い尽くされます。じつはその頃、葉の付け根には、来春の花芽が既にできているのだそうです(かなり意外な事実!)。桜の葉は秋には赤や黄に美しく紅葉して葉を落としますが、その頃の花芽は十分に花になる準備ができあがっているのです。しかし、冬の到来を前に、それ以上の成長を止めてしまい「休眠」に入ってしまいます(なんでだろ?)。その後、冬の間に寒さにさらされながら、一定の条件が満たされると同時に目を覚まします(「休眠打破」)。そして、再び花芽は成長を始め(「生成」)、そのピークに達したタイミングで「開花」に至るのです。気温が上がってきて暖かくなったから花が咲くという単純な仕組みではなく、桜の木の生命に埋め込まれた複雑な情報処理の遺伝的プログラムを実行し続けることによって開花しているのでした。
このプロセスの中で、とりわけ冬の「休眠」は、きれいな花を咲かせるのに重要であり、温度や日照時間、降雨量など、様々な環境条件の累積データが開花のメカニズムの鍵を握っているようです。気象庁の開花予想は、特に積算温度(最高気温の累積値)に注目して、過去の開花実績をもとに予測しているそうですが、さらに予測精度を上がるために、開花アルゴリズムの解明と生育環境データの質と量の向上が、ITの進化と共に進んでいくはずです。
このように考えているうちに、最近話題の「ビッグデータ」との関係を考えてしまいました。ビッグデータとは、構造化されていない情報、構造化できると考えられていなかった情報など、数多あふれる情報を素材として、新たな価値を創造しようという取り組みだととらえていますが、「自然」という情報の時空間こそ、無限大かつ最大のビッグデータの対象なのではないでしょうか。自然科学の歴史は、まさにこれら自然界の情報の構造化とメカニズム解明への挑戦の歴史と言えるでしょう。
ところで、オムロンでは、1970年に創業者である立石一真が打ち立てた「SINIC理論」という未来予測の手立てとシナリオを持って、創業以来ずっと未来への羅針盤として活用し続けてきています。そして、このSINIC理論では、未来予測のゴールを2033年に迎える「自然社会」として設定しているのです。これは、原始的な社会への回帰ではありません。自然のメカニズムから学ぶ、最も調和のとれた理想的な先端社会を思い描いた到達点なのです。
このシナリオに基づけば、現在の人工知能やビッグデータ技術などの先端技術が注目されて急速な進化を遂げていることも、リーズナブルな出来事として説明できてしまいます。自然社会に向かうためのキーテクノロジーとして考えられますから。しかし、自然という大きな存在を前にして、人間ができることとしての「ビッグ」は、まだまだ極めて小さな一部分でしかないのも、謙虚に受け止めなくてはならない事実です。私たち人間は、常に自然に対する畏敬の念を持ち、しかし、究極の目標として自然という情報とメカニズムを追い続けることによって、科学、技術、社会の円環的な進化を遂げ続けていきたいものです。