COLUMN

2014.09.15中野 善浩

お米も多品種少量生産の時代へ

 カミアカリという玄米専用米がある。胚芽部分が非常に大きいのが特徴で、普通の米の3~4倍はある。そのために、しっかりした歯ごたえがあり、トウモロコシのような甘みがある。食感が格段に違う玄米である。玄米が苦手という人が少なくないが、このカミアカリであれば、たいていの人は美味しく味わえるだろう。
  
  一般的に、農産物の品種改良や登録は、農業試験場や企業など研究開発機能をもった組織で行われる。しかしカミアカリの品種登録を行ったのは、静岡県の松下明弘さんという個人の専業農家である。個人での品種登録は、県内初だったそうだ。「稲オタク」を自認する松下さんは、有機栽培で稲を育てながら、四六時中、稲のことを考え、いろいろな試行錯誤を行っているという。そして、あるときコシヒカリの田んぼの中で突然変異株を発見し、7年間かけて自分の手で育種し、2008年に新品種として登録したそうだ。現在のところ、カミアカリを栽培する農家はごく少数に過ぎないが、いずれ大きく広がっていくだろう。
 希少性の高いカミアカリは、売れる力をもった米である。ところが松下さんは、もっぱらカミアカリを栽培しているわけではない。早生品種であるカミアカリに加え、中生、晩生など、複数種の稲を栽培している。高い品質を実現しようとすれば、収穫に最適な時期はごく短い期間に限られてしまい、おのずと栽培できる面積にも限界がある。いっぽう、品種の異なる稲を栽培すれば、それぞれの収穫時期が異なるため、作業時期を分散でき、営農規模を大きくすることができる。松下さんの場合、9ヘクタールの田んぼの稲刈りは、9月初旬に始まり、10月中旬まで約1ヶ月余りに及ぶそうだ。
 
さて近年、猛暑日が何日も出現する、とても暑い夏が続いている。地球温暖化の影響により、将来的には気温がさらに上昇することが確実だと言われている。ただし、稲が開花する夏場に気温が高すぎると、米の収量が減少し、また品質低下を招く原因になる。この先、異常気象のような夏が常態化するとしたら、栽培管理の精度を高めるとともに、何らかの抜本的対策を取ることも必至になる。
異常な暑さへの対策は、大きくは2つの方向で考えることができる。ひとつが高温に強い耐性を持った品種を開発することであり、もうひとつが栽培時期を変えることである。高温期に稲が開花するのを避け、栽培時期を前倒しするか、逆に遅くするか。栽培する稲の種類を増やしながら、あわせて収穫する時期を分散させる。すなわち稲作を多様化させることになる。
 
稲作の多様化は、農家にとって機会になるのではないだろうか。上記で紹介した松下さんのように、作業時期を分散させることで、営農面積を拡大できる。農家は、自慢の米の個性や特徴をアピールできる。消費者にとっては、いろんな米が食べられるようになり、収穫したての米を食べられる時期が長くなる。製造業などでは、多品種少量でモノを生産できることが強みのひとつだとされるが、新米においても、多品種少量生産の時代が到来するかもしれない。
 
新米の季節となった。今年は、西日本では天候不順だったものの、米どころの東日本では豊作で、そのために需給は緩み、新米の価格は下落傾向にあるようだ。いっぽう、カミアカリのように独自の特徴を持ち、大量に生産されていない新米は、そう値崩れすることはないだろう。
そろそろ新米のカミアカリが出回る時期である。関心のある方は、試しに購入されることをお勧めしたい。収穫量が限られているので、早い者勝ちになる。
 
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