COLUMN

2014.02.15鷲尾 梓

転んだ数だけ強く―アスリートの母に学ぶ子育て

 何度見ても涙が出て、力をもらうCMがある。
 
 現在開催中のソチ冬季オリンピックの公式スポンサー、P&Gによる「Thank You Mom(ありがとう、お母さん)」キャンペーンの一環で制作されたもので、オリンピック選手を支えてきた母親にスポットライトをあてている。
 
 描かれているのは、生まれて初めて、一歩を踏み出そうとする赤ちゃんを支える姿。
雪の上で転ぶ子どもを何度も助け起こし、励まし、着替えさせ、あたため、怪我の手当をする姿。
さらに成長し、スケートの、アイスホッケーの、スキーの大会の舞台に立った彼ら彼女らの失敗を成功を、観客席から静かに見守る姿。
競技を終えた我が子を両手をいっぱいに広げて迎え、抱きしめる姿。
 
 CMは最後に、「転んだ数だけ、強くなれた。あなたがいてくれたから。ありがとう、お母さん」と結ばれている。
 
 このひと言に、はっとさせられた。
 
 ここのところ、ある違和感を覚えていたのだ。
3歳を過ぎた子どものもとに、日々、様々な教材や習い事の勧誘がある。「今から英会話を始めれば、苦労せずに英語を身につけることができます」「小学校入学前に逆上がりをマスターしておけば、体育の授業に落ちこぼれません」--。
いかに子どもの進む道を平坦にするか、転ばせないように準備するかが重視され、そのための多様なサービスが提供されている。
転ばずにすむならその方がいい、それが親の愛情だ、と思ってしまいそうになる。
 
 しかし、全く転ばずに歩けるようになる子がいないように、子どもは転びながら学び、転ぶことを怖がらずに挑戦する勇気を自分のものにしていく。
親の仕事は、先回りして支えることではなく、「転んだって大丈夫」と伝えること、そして、傍らで何度でも助け起こす役割を引き受けることなのだろう。
 
 P&Gが公益社団法人日本オリンピック協会(JOC)と共に実施した調査研究(日本代表に選ばれた経験のあるトップアスリートを子にもつ母親40人、一般的な家庭の母親520人を対象)では、「自分の子どもをアスリートに育てる秘訣」として以下の5つが挙げられている。
「子どもは褒めて伸ばす」、「家事も人生も楽しむスーパーポジティブ思考」、「知識や情報よりも、実際に体験・実践することを重視する」、「夫や家族の協力を得る仲良し家族」、「子どもが挫折した時こそ子どもの力を信じる」
--これらは、「アスリート」に限らず、「転んでも前を向ける」子どもを育てるためのヒントと言えそうだ。
 調査の中で、「自分は人生を楽しんでいる」と考える割合が、一般の母親では50%に対して、アスリートを子にもつ母親は90%となっていることが印象深い。自分自身が人生を楽しみ、その姿を見せることもまた、子ども自身が人生を歩んでいくうえで大きな支えとなるはずだ。
 
 
参考:
P&G「ママの公式スポンサー」キャンペーンCM「転んだ数だけ強くなれた」
http://www.myrepi.com/article/thankyoumom-jp-cm
 
JOC・P&Gファミリープロジェクト「子育て調査」
http://prw.kyodonews.jp/prwfile/release/M101519/201401147525/_prw_OR1fl_477104q6.pdf
 
 
PAGE TOP