COLUMN

2014.02.01田口 智博

地域の多様化への鍵は生活者視点

 
 ある自動車メーカーの方と話をする中で知ったのだが、ここ数年でガソリンスタンドがずいぶん減少しているそうだ。そう聞くと、過疎化で利用者が減り、経営の厳しい地域を中心に撤退が加速したのだろうか、と思ってしまう。しかし、資源エネルギー庁の統計をみると、全国の給油所は1994年の6万所超から2012年の3.6万所にまで落ち込み、東京や大阪の都市での減少率が5割超に上る。背景には、自動車保有台数の伸びの鈍化、車の燃費向上によるガソリンの需要増が望めないとともに、最大の要因として2011年の消防法改正が挙げられるという。給油所のガソリンタンクが40年を経過したものは、改修・交換が義務付けられたためだ。ガソリンスタンドの設置基準の厳格化が、都市圏ではもともと過剰気味であったこともあって、現在のような状況につながっているようだ。
 
 最近ではガソリンスタンドに限らず道路や橋梁、上下水道などインフラの老朽化が社会問題として指摘されている。当然それらのメンテナンス実施は欠かせない中、一方で水素や熱といった新たなエネルギーの活用に向けインフラ整備の動きもみられようとしている。
ちょうど先日訪れる機会のあった北九州市は、低炭素社会の実現を目指して、スマートコミュニティの社会実験など、まさに戦略的な実証の推進エリアにあたる。取り組みでは、「水素エネルギー社会」、「リサイクル社会」、「アジアへのグリーンシティ輸出」を掲げ、精力的な活動が進められている。
 
実際に見学をした水素利用の現場では、工場エリアで発生する副生水素がパイプラインによって、水素ステーションやエコハウス、大学など市街地の各施設へ供給されている。水素パイプラインはガス管のように地中へ埋設がなされ、全国で唯一市街地を通っているという。その総延長距離は10kmに及び、現在は点検頻度など実用化に向けた安全面の検証があわせて行われているところであった。
また、エネルギーの受け側となる施設の一つ、水素ステーションは、現在、国内でみると24ヶ所あるそうだ。2015年には、大手自動車メーカーを中心に水素と酸素を反応させて電気をつくる燃料電池車が、相次いで市場へ投入予定となっている。市の担当者の方の話では、今後その動きに歩調を合わせる形で、水素ステーションの整備は1年後には全国100ヶ所程へ拡充していく予定だという。
 
北九州市は、工場と街が隣接しているという点で他の地域にはない優位性がある。その中でスマートシティのモデル地域として、技術シーズを活かしてインフラ面でのプラットフォーム整備を進め、街づくりを展開している様子がうかがえる。
しかし、このように地域に工場群を抱えて、水素が比較的容易に入手可能な地域は、日本全国を見渡してもそう多くないであろう。実際、市の担当者の方の話でも家庭で水素エネルギーの利用が一般的になる光景までは、現状では想像しづらいという。ここでの実証が上手くいったからといって、水素エネルギーが広く全国一律に利用できる程、単純な話ではないようだ。
地域でのエネルギー利用の実証状況をみてもわかるように、そこでは環境や特徴を理解して、それらをより効果的に活かせるまちづくりを志向する動きが出てきている。ただ、多くの地域においては、必ずしも先進技術の導入ありきで取り組めるわけではない。そう考えると、地元の人々の暮らしや価値観にもとづく生活者ニーズを踏まえた柔軟な発想が、これからの多様なまちづくりにもっと活かされてもよいはずだ。
 
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