COLUMN:ヒューマンルネッサンス研究所(HRI)

COLUMN

2013.05.01田口 智博

地域運営から学ぶ"本気度の牽引"と"受け入れる懐の深さ"

 3月下旬、「五感塾」という"学びの力の向上"がテーマとなっているワークショップへ参加をしてきた。場所は島根県の沖合いに浮かぶ隠岐諸島の四つの有人島の一つ、海士町。本州からだと、松江市の七類港から3時間の船旅を経て、ようやく辿り着くことができる人口およそ2,300人の島である。最近ではIターンやUターンの若者が活躍するなどしていて、各方面で注目されることが多くなっている。
 
ところで、「五感塾」のそもそもの由来は、いすゞ自動車再建の立役者とされる北村三郎氏の提唱によるものだという。海士町に限らず、これまでにもいくつかの地域で実施され、"都市と地方の新しい交流のかたち"としての取り組みであるそうだ。趣旨には、参加者同士・地域協力者が、現地・現物の現実に五感で触れる体験を共有し、気づく力・感じる力を高め、学び上手になって人間力を磨くことが謳われている。
 日常を思い返してみると、仕事をはじめとして、ある種決まったテーマについて考える機会は多い。しかし、今回のように前提を置かず、参加する個々が地域で暮らす人々の生き様、また地域の自然や社会のあり方を通して、みずから気づきを得て、学びとっていくという点はとても興味深いところである。
 
 海士町に降り立ち、地域を観て回りながら話を伺う中、町長が時間を取ってくださる場が設けられた。そこでは行政になぞらえて、何かを成し遂げるためには"本気度"が重要であるとの指摘があった。そして、例として取り上げられたのが、農業や漁業という一次産業。これらの産業は、国内の多くの地域で生業とするには採算や収益の面で課題が山積している。そのことは海士町でも例外ではない中、町長は「産業として食べていけないのではなく、これまでとは違った新しいやり方が見出せていないだけだ」という。実際、海士町では、2005年にCAS(Cells Alive System)という細胞組織を壊さず凍結させることができる画期的な新技術システムをいち早く導入し、漁業分野での高付加価値商品化を実現している。また、現在もIターンの若者が中心となって、島の特産であるナマコを「干しナマコ」として商品化に取り組むなど、まさに次を意識した行動が地域を上げて進行中である。話に聞き入りながら、地域運営には、住民の本気度を牽引・支援するという面とともに、新たな行動を歓迎し容認する地域の懐の深さという面の双方が必要であると感じられた。
 
 これまでにも各地域で精力的な活動を進める方々に、何度かインタビューさせてもらう機会があった。その際、鍵となることとして、「みずから手を上げ率先して行う」、「リスクを恐れず第一歩を踏み出し取り組む」といった声が多く聞かれた。また、そこには新たな行動が円滑に進むように、支援を取り付ける人のつながりというものも欠かせない要因の一つでもあったことが思い起こされる。
 今回、「五感塾」への参加では、実施スタンスにある現地・現物に触れるということが、自分ごととして気づきを広げていく上でとても良い機会であると実感できた。また、参加者同士の共有体験を通して、誰かが新たな考えを持つ、あるいは行動を起こそうとする際、共感をもてるような関係形成の場にもなっている。地域運営に求められる要素と同様に、本気度を高めることにつながる"気づき"と、人の発想や行動を歓迎し応援できる"関係性"の大切さについて、あらためて学ぶ機会でもあったように思う。
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