COLUMN

2012.02.01内藤 真紀

シリーズ「2012年のキーワード」#3ダウンシフト下の価値創造

現実世界で目にすることのできる「辰」といえば、タツノオトシゴです。オスが育児嚢というお腹にある袋の中でメスの産んだ卵を育てる生態が有名で、いわば育児に積極参加する「イクメン」の代表選手。2012年のキーワードを考えるうえで、今年が辰年だという点に(辰とタツノオトシゴはまったく別モノなのですが)ささやかな巡り合わせを感じます。
 
東日本大震災をきっかけに、夫婦や家族、地域社会のつながりを大切にする意識が深まったといわれています。たとえば「平成23年度国民生活に関する世論調査」によれば、「震災後、強く意識するようになったこと」のトップ5に、「節電に努める」「災害に備える」「風評に惑わされない」とともに、「家族や親戚とのつながりを大切にする(40.3%)」「地域とのつながりを大切にする(35.5%)」がランクインしています(複数回答)。
家族志向と並行して目に付くのが、消費を抑制する傾向です。市場調査会社インテージの「冬休みの過ごし方と今年積極的におこないたいこと」調査では、2011~2012年の年末年始、家族や自宅で過ごす時間を例年より充実させることと、ショッピングや旅行の費用を控えることを意識した人が多かったという結果が出ています。さらに、今年積極的に行いたいことのトップ3は「貯蓄」「節約」「国内旅行」でしたが、5人に1人は「家族と過ごす時間を増やす」を挙げており、とくに子どもの年齢が低いファミリー層ほど、家計は引き締めながらも家族とより多くの時間を過ごしたいという傾向がありました。また夫婦のみ世帯層では、「夫婦2人の時間を増やす」を3人に1人が選択するという特徴がありました。
 
ダウンシフトとは、「過度な出世競争や長時間労働、物質主義的、唯物的な生活環境を日常から排し、よりゆとりのあるストレスの少ない生活に切り替える生活態度の劇的な変化を指し」(Wikipediaより)ます。その具体的な行動には、先の調査にみたような、家族や夫婦で過ごす時間を増やすことや、ボランティアやコミュニティ活動に取り組むことも含まれます。より幸福感やゆとりのある生活のために収入は減っても働き方を変える、という人は少数でしょう。しかし、調査結果で示された、消費を引き締めつつ家族や地域社会とのつながりを強化しようという市民の傾向と、ダウンシフトの潮流は同じ方向にあるといってよいでしょう。
 
家族志向、地域志向、そして節約・消費抑制の意識には、震災と景気低迷による収入ダウンが影響しているのは間違いありません。しかし、一時的なものに終わることはないように感じます。企業にとっては、ダウンシフトという潮流に対して、事業・商品の内容はもちろんのこと、従業員に対してもどのような価値を創造していくかが問われる年になると思います。これは、従業員にとっては自分の働き方を見直す機会でもあります。私はといえば、まずは労働時間の短縮から目指そうと思います。
 
参照:
*平成23年度国民生活に関する世論調査(内閣府)
http://www8.cao.go.jp/survey/h23/h23-life/index.html
*自主企画調査レポート「冬休みの過ごし方と今年積極的におこないたいこと」(株式会社インテージ)
http://www.intage.co.jp/chikara/newsletter/report-vol27#TOP
 
 
 
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