COLUMN

2012.01.01中間 真一

シリーズ「2012年のキーワード」#1"Social"(社交的)ないき方

明けましておめでとうございます。今年も、HRIの研究員コラムを通し、読者のみなさまと、未来への針路についてやりとりをしていければと思います。

年始のごあいさつのとおり、年は明けました。何も無くなった「空けた」のでもなく、意図して何かを「開けた」のでもなく、明るく見通しがよくなったからおめでたい、心底そのように思える一年のスタートをみなさんと共に切りたいですね。

昨年、何を考えても希望よりも不安が先に立ってしまうような中で、私が「ハッとして」、「ホッとした」、最も印象に残ったエピソードの一つに、ブータン国王夫妻が被災地福島の小学校で子どもたちを前にして話された「龍の話し」があります。私もその様子をテレビで何度となく見ました。

「みなさんは、龍を見たことがありますか?」
(子どもたちは、ハッとしてざわざわしていました)
「私は、龍を見たことがあります!」
(子どもたちから、どよめきが。そして)
「龍は一人ひとりの心の中にいます。龍は、私たちの経験や体験を糧として大きくなります。だから、年を重ねて経験を積むほどに、龍はより強くなります。私たちは、いつもその龍を見守って大事に育てていかなくてはならないのです」

「龍の国」ブータン国王からの、福島の被災地の子どもたちへのメッセージです。私も出だしにハッと驚きながらも、希望の未来に向けて自分の中の龍を育てるという話しにとても感銘を受けました。今年は、その辰年です。「昇り龍」など、とても勢いのある上昇のたとえとされることが多いのですが、私は国王夫妻の「龍の話」から、自律した生き方を示されたように感じました。さまざまな経験を糧に、自らを律して社会と共に生きるという。そんな未来に向けて龍の年が明けたのだととらえました。

 その辰年の2012年、このコラムのシリーズテーマは「2012年のキーワード」でスタートしたいと思います。HRIの研究スタッフが、今年のキーワードをどのようにセットするのか、私も楽しみです。

 そして、私からの今年のキーワードは"Social"です。この英単語を「社会」ではなく「社交」という意味でキーワードとしたいと思います。いかがでしょうか?

 インターネット技術など20世紀末からのICTの急速な進化と浸透は、個を重視する20世紀末の日本の価値観トレンドとも相まって、"地縁" "血縁" "社縁"といった既存の強い社会バンドの力を緩め、個人の自由度を向上させました。しかし、その結果として"無縁"という新たな社会問題が大きくなりました。
そんな中で、昨年三月に発生した東日本大地震。被災者の方々の復興に向けた集落単位の地縁バンド力や、復興支援に全国から集まったボランティアの方々の貢献縁のような利他的な行動からは、確実に新たな時代の"縁"の再構築というか、"社会"のあり方の新展開を感じるものでした。そこでは、もはやオフィシャルな行政の管理システムによる社会力よりも、インフォーマルな団体や個人がSNSなどを活用して進めた力の方が現場での実効性を持っていたと聞きます。

地縁、血縁、社縁の復活を望むのでもなく、無縁社会の底なし沼に落ちていくのでもなく、「みんなそれぞれに違うんだ」という大前提のもとに、違った考え方や姿のまま、自らの意思や偶然の中で出会いの豊かさを楽しみ、生きがいや働きがいを見いだして生きる。これは、"社交的な生き方"といえるのではないでしょうか。場の律を踏まえつつ、そこに集まる人たちの多様さを互いに楽しむような。そんな幸せを求めていく社交の時代への兆しが、より明らかになる今年ではないかと感じています。これは、今までの大量生産大量消費の経済をも大きく変えることにつながる生き方になるのではないかと感じます。

そういうわけで、これまでBlogやTwitterを、「コンテンツの無い人々による、意味も価値もない情報垂れ流しの自己満足」とバカにしてきた私も、新年を機に社交の道具としてfacebookへの書き込みでも始めてみようかと。
(写真は朝日新聞asahi.comより)
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