MONOLOGUE

2021.06.23

マッキンゼーレポートから膨らんだ想い
The growth triple play: Creativity, analytics, and purpose


毎朝、メールボックスを開けると、マッキンゼーのレポートメールが届いている。流行のバズワード満載のタイトルには食傷気味だが、時々、ひょんな拍子にレポート本文の英文にかじりつくこともある。今朝もそうだった。

 レポートのタイトルは「成長のトリプル・プレイ ―創造性・分析・目的―」。これら3つを統合して経営できる企業は、少なくとも同業他社の2倍の成長がもたらされるとある。「まあ、そりゃそうだろう。そんな三拍子そろうような立派な経営ならば」と、アイディア創造、それを裏打ちするデータ分析という、目を引くワードを並べたマーケティング戦略の一般論に映り、deleteボタンを押しかけた。しかし、トリプル・プレイの一つ「目的」に引っかかってとどまった。

 もちろん、”パーパス”という言葉が、最近のビジネス書のバズワードになっているのは承知している。DXブームが一段落したら、次はパーパスかもしれない。しかし、DXもパーパスも、ぼやっとした一般用語で実態が見えないのに、なぜ世間はこんなに騒ぐのだろうと訝しさもあった。なので、「ここでは、なぜ、創造性と分析に加えて目的なのか?」を読んでみようと思ったわけだ。

 マッキンゼーの著者らの分析では、創造性・分析・パーパスの3点セットのトリプル・プレイを実行できている企業はわずか7%に過ぎないが、直近2年間の収益成長率は、同業他社に対して2.7倍の高成長を実現している。3つの内の1つが欠けると効果はガクッと下がるらしい。これも、そりゃそうだろうと思う反面、「パーパス」の統合がトリプル・プレイの難しさだというのが興味深い。

 レポートの中では、「パーパス」を”North Star(北極星)”と表現している。つまり、迷ってしまっても、ぶれずに向かうべき不動の方角だ。これを、創造性や分析に重ねてトリプル・プレイにすることが最も大事なのだと主張している。その企業事例も、それなりに納得した。星という点が示す具体的な方向であることも意味深そうだ。これは、先行き見通しがつかない今の時代、パンデミックの収束が見通せない今の時代、大きな変化の予感を多くの人が感じている今の時代ならではの成長要素だろう。未来への羅針盤を獲得するということだ。

 さて、未来への羅針盤と言えば、我々オムロングループではSINIC理論ということになる。そして、SINIC理論の現在における”北極星”とは、「自律社会」だ。さらに、私たちは自律社会の構成要件を、「自立」「連携」「創造性」のトリプル・プレイに見立てている。こうして見ると、次の10年、そしてポスト・パンデミックの企業経営にも、社会全体にも、「創造性」が極めて大きな価値を持つようになるのではと確信を得た気持ちになってくる。そして、SINIC理論を、創造性や分析と、いかに統合して未来をつくるか?ということになる。

 ところで、この欧米企業の「パーパス」ブームだが、日本企業は、いつもの調子で、それをフォローすべきものだろうか?という疑問があった。老舗を中心とした日本企業は、その源をたどる商家の家訓をベースとした社是、社訓、企業理念、企業哲学というものを持ってきたところが多い。三井家の家訓、三菱の三綱領などだ。そしてこれらは、「なんのための商いなのか」をステートメント化している。玉虫色でなにも言っていないのと同様なものもあるが、しっかりと存在意義を主張しているものも少なくない。

 しかし、そこから規模を大きくしていった日本企業では、Our Valueと呼ばれるような組織構成メンバーの価値基準、行動の判断基準が曖昧なままであったと言わざるを得ない。一方の欧米企業は、企業とは資本主義社会システムの一パーツであり、存在理由は自明のものという前提で営まれてきたがゆえに、パーパスなどには無頓着でも問題なかったという見方ができるのではなかろうか?

 グローバル経済の中で生き残るために、日本企業の経営も欧米基準に倣う必要が生じ、形骸化しつつあったパーパス的な社是・社訓を改めて、ミッションやバリューを標榜するようになった。しかし、成熟社会に向かっている世界の人々が企業に向ける視線は、SDGsにも見られるように、「なんのため?」を問う厳しい視線となって、にわかに企業経営におけるパーパス志向が強くなっている。

 もし、そういうことならば、日本企業はグローバルであれドメスティックであれ、埃をかぶってしまった自らの会社経営の哲学(社是・社訓)を手元に戻し、誇りをもって世界に訴え、実際にパーパスに愚直に向かうことが、成熟社会に持続する未来企業の道と言えないだろうか。未来へのアドバンテージ獲得のチャンスではなかろうか。

 オムロンの社憲は「われわれの働きで、われわれの生活を向上し、よりよい社会をつくりましょう」である。そして、かつては企業哲学として「機械にできることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべき」を標榜していた。すなわち、人間らしさを活かせる、よりよい未来社会をオートメーションでつくるということになるだろう。自画自賛に映るかもしれないが、この両者のデュアル・ミックスは、素晴らしいパーパスではないか。これにクリエイティビティと分析をミックスした先に、未来をつくるイノベーションは生まれる。
彼らコンサルタントのレポートの見立てから、そんな想いが膨らんだのだった。

思いもよらず、柄にも無く、マッキンゼーのコンサルレポートを火だねに、飛び火させて考え事をしてしまった。たまには、こういうことも。

ヒューマンルネッサンス研究所 所長
中間 真一
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