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「モンスター対策」の先へ~学校と保護者の信頼関係~
鷲尾 梓

55.jpg 「モンスター・ペアレント」という言葉がある。学校に対して過大な要求を突きつける、「困った保護者」を指して使われる言葉だ。ずいぶんひどいネーミングだな、と感じながら、事例に目を通していて目を疑った。

 「うちの子に掃除をさせるな」「遅刻してしまうので、電話をして起こしてほしい」「第一希望でない選択教科の授業は受けさせない」「部活動のユニフォームは学校で洗ってほしい」・・・
 
 ほんとうにそんなことを言う人がいるのだろうか、と思うような要求ばかりだ。中にはあまりにも非現実的で、苦笑してしまうものもある。しかし、自分がもし学校の教師で、このような要求を突きつけられたらと考えると、とても笑ってはいられない。

 悩む教師を支援するため、各地でさまざまな対策が始められている。岩手県教委では昨年3月、「苦情等対応マニュアル」が公立学校に配布された。学校に苦情を寄せる保護者や地域住民を「善意の提言者」「溺愛型」「利得追求型」「理解不能型」など10種に分類し、それぞれへの対応方法を示したものだ。

 大阪市では今月5日、この春に小学校に配属されたばかりの新任教師を対象とした研修が行われる。夏休み前の初めての保護者懇談会という設定で、ロールプレーを行い、保護者との上手な接し方やトラブル回避の方法を身につけることがねらいだという。

 このような情報・機会は、教師が直面し得る問題について前もって知っておくうえでは有用だ。自分だったらどのように対応するか、どのようにすればよりよい解決ができるのかを考えることで、実際に問題に直面した場合に、気持ちの余裕を持って対応することができる。前述のような自分本位な要望、理不尽な要求に対しては、教師が毅然とした態度で「NO」と言うことも必要だろう。


 しかし、「保護者対応」のマニュアルやトレーニングの充実に加えて忘れてならないのは、学校と保護者との信頼関係ではないだろうか。「モンスター・ペアレント」と呼ばれるように、自分本位で、わがままな保護者が増えていることが主に問題視されているが、教師や学校を信頼できない、安心して任せられないと感じる保護者が増えていることも無視できない。

 HRIが実施した調査でも、教師や学校に対する保護者の厳しいまなざしが浮き彫りになった。「学校の改善に向けて、教員養成のための教育を抜本的に改革すべき」「教員の適正評価を徹底すべき」と考える保護者の割合は、6割を超えている。

 教師と保護者の関係に限らず、十分な信頼関係の築けていない関係では、任せるべきところを任せられなかったり、意見や希望を伝える言葉が必要以上に強いものになりやすい。直面した要望にどううまく対応するか、ということにとどまらずに、お互いを信頼し、建設的なコミュニケーションができる関係づくりへと、子どもたちの学びの場を取り巻く関係がより豊かなものになっていくことを願う。


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