毎年2~3月のこの時期は、大学の入学試験シーズンである。大学というと、最近では入学時期に関して、日本でも欧米と同様の秋に移行してはどうかという議論が見受けられる。背景には、国際社会における大学の地位や競争力の強化、また海外から優秀な留学生の確保といった狙いがあるといわれている。グローバル化の流れの中で、大学は仕組みや制度などの変化を余儀なくされつつあることがうかがえる。
そんな状況がある中で、以前、英国において大学へのインタビューを実施した際に印象に残ったことがある。それは、大学が地元地域との関係を強く意識していることであった。世界的に十分な知名度がある大学であったとしても、過去からのさまざまな変遷を経て、今では地域と積極的に接点を持とうとする意識が顕著に感じられたのだ。
例として、オックスフォード大学では、かつては学生紛争などをきっかけにカレッジ内には街の人々が入れない状況が続いた。地域に対抗するかのように、大学の外の世界には興味がないといった孤高の存在を貫いていたそうだ。しかしここ100年ぐらいの間に、大学において学生を集めるという他との競争意識が高まるにつれ、その実現にはまず地域の大学としての成功が必須であるという認識が強まる。というのも、学生の募集人員数にせよ、大学の建物の立て替えにせよ、地域へのメリットが理解されないことには、なかなか自治体からの許可も下りず、物事が思うように進まない現実に直面したからである。これが、地域との付き合い方を考えるターニングポイントとなったという。
以来、900年近い大学の歴史の中でも初めてといえる取り組みが進む。大学が自分たちに対する地元の声を聞く、大学が与える経済・文化・環境面での利益を考えるなど、一つ一つ丁寧に整理を行っていく。それによって、たとえば大学があることで地域に年間6億£もの経済効果を生み出す、大学の医学部が脳梗塞や糖尿病の世界トップレベルの治療を可能にする、学生が率先して移民への英語教育役をかってでているといった面がみえてくる。このように少しずつ大学の存在のメリットを紐解いていくことで、住民の印象にも変化が生まれつつあるそうだ。オックスフォード大学といえども、これらの取り組みは緒についたところで、まだまだ試行錯誤しながらだという。
一見するとグローバル化と地元地域との関係強化に関しては、双方のベクトルが異なるように捉えがちである。しかし、よくよく考えてみると、そこには、地域との強固なつながりが、大学の個性を生み出し、外から人を惹きつける大きな魅力を形作っていることに気づかされる。
最近では、大学のホームページからYouTubeにアップされた動画を見て、大学の先生がどのような研究テーマに取り組み、またそこからどのようなことが学べるか、といったことをみずからの言葉で紹介していたりする。ふと自分の頃はと考えると、ありきたりな学部・学科の紹介リーフレットなど、限られた範囲でしか情報を知り得なかったことが思い出される。
既に、こうした情報発信という面ではグローバル化といったハードルは取り除かれているわけで、今後ますますその大学で学ぶことの意義、その内容というものが求められてくるのは明らかである。それには、単に仕組みや制度をグローバルスタンダードにするだけではなく、その地域にある大学でしか学べないといったことが将来の学生にしっかりと伝わるかどうかにかかってくるはずだ。