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【コラム】 そこに潜む「遊び」

「遊びなのか、本気なのか」とよく耳にする二択に、違和感を覚えるのは私だけだろうか。この前提には、遊びを価値の低いものとして見積もるような了見が感じられるし、本気で遊んでいた場合どっちと答えれば良いのかわからない。このモヤモヤを解決すべく今回は、「本気」「真面目」といった態度、「学び」「働き」の営みとの対比から、遊びとは何なのかについて考えてみたい。

 

1)学びには結果がある。資格やスコアといった目に見えるものから、知識や教養、人的成長といった質的なものまで。結果があるということは目的や動機が先に存在することでもある。かたや、遊びには明確な結果や目的がない。しいて言えば、瞬間的な "快"のフィーリング(たのしい、おもしろい、スッキリするなど)が遊びの目的といえる。

 

2)したがって遊びのおもしろさは概して主観的だ。小学生の夏休み、よく側溝に入ってタニシを集めるのが好きだったが、いったい何がそんなにおもしろかったか、今となっては思い出せない。ドブは不衛生だしヒルに血を吸われてもなおやめなかったはなぜだろう。あの時に感じていたおもしろさは当時の自分と一緒に居た友達だけのものだ。これこれこういうことが明らかになるから面白いんです、と説明しやすい「学び」とはやはり違っている。

 

3)学びは静的・体系的にまとまった記憶が残るけれど、遊びは漠然とした記憶しか残さない。何かの経験をした子どもに感想を求めてもたいがい「たのしかったです」「とてもこわかった」「あったかい感じがした」といった感覚的な表現に溢れるのも、彼らの経験が学びではなく遊びだからではないか。

※ただしカラダへの記憶(ふるまいとか遊び方。翌日の筋肉痛、怪我の跡も含めて)を、遊びは残す場合も多々ある。

 

4)学びは「時間」と密接な関係を結ぶ。継続や積み重ねがモノを言う。子どものうちに学んだことが時間を経て意味を帯びてくることも多い。かたや遊びは時間の観念から自由だ。いつやめてもいいという気軽さが遊びの真骨頂である。逆にどれだけ続けても構わないが、そうなるとだんだんと学びにも似てくる。

 

5)遊びはルールに縛られない。自分たちでルールをつくってしまうこともできる。マラソンやサッカーなどは元々は遊びだったのだろうが、ルールが設定され、それが広く共有されるとスポーツや競技になる。そうなると「本気」度も増し、遊びとは呼びにくいものになっていく。

 

6)遊びに夢中になると、常識や人の目、時間感覚、大人の場合はしばしば金銭感覚すら、すべてが吹っ飛んでしまう。学んでいるときの人間には、もっと冷静さが残っている。 

 

 

こうやって対比させてみると、遊びのキーワードとして出てくるのは【無目的】【非生産的】【主観的】【感覚的】【非連続的】【ルールレス】【中毒性】など。なるほど、これらが遊びの特徴だとすれば、効率的でスマートな暮らしを志向する人々にとっては、遊びなぞ不埒なもの、価値の低いものと捉えられてしまうのも頷ける。しかしこういった要素は「よく生きる」ためのスパイスにもなっているようにも思う。

 

さて、最近「学び」の機会というと、大学と協働の研究会が浮かぶ。事務局を担当している私にとっては「働く」場でもあるのだが、「学ぶ」でも「働く」でもないモードが活性化する不思議な時間でもある。

本研究会でお集まりいただいているのは、ロボット、コンピュータ、心理、人類学、宗教、環境、医療といった幅広い領域の最先端の研究者のみなさんである。こういった先生方が、人間らしさってなんだろう?とか、これからの機械は、社会はどうあるのか?といった、太古から人を惹きつけてやまない問いについての議論を熱く交わしてくださるのである。この刺激的で濃密な空間に飲み込まれていると、時間も忘れて、このままずっとこの議論を聞いていたい...などと、タイムキーパーの役割意識が薄れていく感覚に陥る。役割上やむをえず、そろそろお時間なので...、と杭をさすのだが、この後ろ髪を引かれる感覚は、子どもの頃、暗くなるまで友達と遊んでいたのに、もう帰る時間だからと大人に注意され、「今が一番いいところなのに」とブツブツ言いながら帰途についた、あの感覚によく似ている。

働くことを心底楽しめたり、学ぶことに悦びを感じられたりする場面には、遊びのエッセンスが潜んでいるのかもしれない。



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