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てら子屋コラム

【コラム】 経験と教育
~デューイの教育哲学に未来可能性を見る~
中間 真一

 アメリカ西海岸に来ています。「デザイン」の新潮流についてディスカッションすることが目的です。柄にもなくイマドキのビジネスマンを気取って、羽田発の深夜のフライト(あまりお勧めできません。徹夜明け状態です)でロサンゼルスにやってきました。初日の今日、カリフォルニアの脳天気な青空は健在な中、とても爽快とは言えない朦朧とした気分のまま、朝からデザインスクールやデザインハウスに出かけてきました。

 しかし、やはり「本物」、「本人」、「本場」、我らの「てら子屋三本主義」は本当です。ディスカッションを始めるや否や、鈍っていた私のセンサーは突然レベルが上がり、各訪問先で予定時間をはるかに超えてしまうほど互いに盛り上がりました。「デザイン」は大きな変化の渦中です。キーワードは「経験」です。

 『経験経済』というコンセプトが注目を浴びてから、だいぶ時間は経ちました。それは、「サービス経済」の先に現れる近未来経済という位置づけでした。当時、私もおもしろく見ていましたが、バブル崩壊などで姿を消してしまったと思っていたら、今、デザインの世界では「経験のデザイン」が、コンセプトではなく、大きな現実テーマになりつつあります。モノの形や使いやすさの範囲を超えて、サービスを含め込みながら、社会的な状況の中での経験という「コト」として、顧客に価値を提供できるようにデザインするというわけです。

 さて、それが「てら子屋コラム」の題材と何の関係があるの?みなさん、いぶかしく思っているかもしれません。しかし、あるんです。「経験」と聞いて私が即座に思い出すことの一つが、J.デューイの教育哲学です。手短に言うと「子ども自身の経験こそが好奇心を喚起する。そこに、独創力や学びへの願望や、学ぶ目的意識が生み出される。それこそが、子どもの能動的な成長なのだ」ということでしょう。まさに、私たちの「てら子屋」発想の原点でもあります。

 ひるがえって、今の教育や子どもたちの学びの現状はどうでしょう?きっと、家庭のご両親や受験産業の渦中の方々からは、「経験しながら学んでいくなんて、理想かもしれないけれど、そんなことしていたら今の世の中どうなるか。きっと負け組街道一直線でしょ。子どもたちにはすごい知識吸収力があるんです。それを活かさない手は無い。経験しながらなんて悠長なことを言ってないで、知識吸収の達成感を成績という見える姿で味わいながら、可能な限り伸ばしてやろうとするのが、子どもに対する愛情じゃないですか」なんていう声が上がるのかもしれません。

 しかし、社会の変化はガラガラと現在進行中です。目先の表層知識の獲得に追われていたらきりがなくなるでしょう。知識社会版「モダン・タイムス」になりかねません。未来を担う子どもたちに、今こそ「学びのルネッサンス」が必要とされていると感じます。子どもたちの学びの場には、やはりリアルに足場を固めて進める「経験」のペースに合った「学び」としての「教育」が重要だと思うばかりです。早期教育のような、経験ペースをはるかに超える「強育」ではないはずです。だから、社会のルネッサンスも必要です。

 教育の目的とは何でしょう?私は、デューイの主張するように、子どもたちに対する未来の責任と、未来を生きる上での成功の準備だと思っています。その未来というのは、いきなり想定できない遠くの未来でも、はるか昔の歴史を踏襲する未来でもないはずです。

 そんな教育の場づくりに必要なのは、子どもたちの成長経験という、状況のデザインではないかと思うのです。そう考えた時に、学びのあり方の未来可能性が見えてくると。
 ビジネスのマーケットは、教育システムよりもずっと正直で柔軟で未来志向な面があると感じます。それゆえに、「経験デザイン」というビジネス世界の先行現象を無視してはならないと感じたのです。このコラム、興奮冷めやらないディスカッション直後の走り書きゆえに、この出張を終える頃には書き直したくなっているかもしれません。ぜひ、それも経験を通した成長としてご容赦のほど、よろしくお願いいたします。


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