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【コラム】 地域活動に対するニーズの高まり
田口智博

 人々が暮らしている地域には、それぞれに古くからその土地を形づくっている山や川といった自然、また建物や橋など人の手によって生み出されたものが存在している。最近では、そうしたものに触れ合う機会を持ち、子ども、大人を問わずに、みんながあらためて地域の良さを学ぶという取り組みが目に付く。

 今月の初め、京都で活動するNPO法人「子どもと川とまちのフォーラム」が主催する、『子どもと大人で川とまちの寄り合い会議』というイベントに参加をした。丸一日かけて実施されたその活動では、午前は琵琶湖博物館の学芸員の方を講師に迎えて、子どもたちが地域を流れる川に入って「川体験」。続く午後は、子どもと大人が一緒に席を並べて川について語り合う「寄り合い会議」が行われた。
 午後の会議は、高校1年、中学2年、1年生の3名がコーディネーターを務め、国交省や京都府・市をはじめとする行政職員、また学校の先生といった大人を相手に議事進行をしていく。そんな子どもが主役の光景が新鮮に映る中、議論の中身はというと「どのような川だったら入ってみたいか」、「身近な川の自慢できるところはどこか」など川にまつわるテーマに沿って、子どもと大人の間で意見が交わされる。会議のやり取りに耳を傾けながら、今の子どもたちが普段川で遊ぶことがほとんどなく、今回のイベントが初めての川体験という意見も少なくなかったことに気づかされる。

 そもそも、昔は川で遊ぶ子どもたちを“川ガキ”と呼び、京都でもその姿がよく見かけられていたそうだ。しかし、近頃はすっかり目にしなくなっている現実がある。確かに、川に限らず自然の中で子どもが遊ぶ機会が減っているといった類の話はしばしば耳にする。今回イベントを主催したNPOでは、そんな現状を憂い、川ガキの存在が川や地域社会の豊かさを表す指標のようなものと考えて、川で遊ぶ子どもたちの育成に取り組もうとしているという。そうした背景の下、会議では、「子どもたちが川へ遊びに行って、川に愛着を持つようになれば、それがきっかけとなって大人も含めて地域の良さである川を守っていく好循環が生まれる」といった大人からの意見も聞かれた。

 もう一つの事例として、場所は東京・日本橋エリア。その地域には、重要文化財に指定されている日本橋が架かっている。橋は江戸時代に諸街道の起点として定められ、現在、その中心には道路元標が記されていることでも有名である。そんな由緒正しい橋を持つ地元では、毎年7月の第4日曜日を「橋洗いの日」として、地域の子どもや大人が一緒に、一時車両の通行を止めて橋を洗う活動を行っている。また、橋の下を流れる日本橋川では、汚泥を分解する微生物を固めて団子状にしたものを投げ入れて浄化にも取り組む。私がこの活動に参加したのは数年前ではあるが、川の水質に関しては年々改善されつつあるそうだ。
 また、橋の保存に取り組む地元団体では、「全国こども橋サミット」といったイベントの開催も手掛けている。子どもたちが「橋」を通じて地域の文化・歴史を振り返り、さらには交通や暮らし、河川の環境など考えてもらうことを目的にしているという。そこでは、全国各地から集まった子どもたちが橋と暮らしの関わりについて発表することで、地域社会への関わりや思いが深まっている。

 子どもと大人の双方が一緒になって、地域について学び、考えるきっかけとなる活動は、このようなケースだけでなく、各地で形を変えて実施されているであろう。傍目から見るだけでは単なるイベントの一つに過ぎない取り組みも、実際に参加してみると、そこでは地元に根差して活動するNPOや団体が、熟知した地域の良さを上手く活用している様子が伝わってくる。地域社会の再建ということが喫緊の課題として叫ばれる中、これからは、地域が活気づき、豊かさを取り戻すこうした活動の必要性がますます高まっていきそうだ。


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