今、アフリカは、急速に成長しつつある市場として注目を集めている。その大きな特徴のひとつは、世界で最も「若い」人口構造だ。アフリカは全人口の41%が15歳未満で、世界で最も「若い」地域のひとつだという。これはインドの33%、ブラジルの28%、中国の20%と比べても高い割合である。日本はさらに低く14%であるから、約3倍にあたる数字だ。この「若き大陸」に興味を引かれ、『アフリカ 動き出す9億人市場』(※)を手に取った。
アフリカの若年層が注目を集める理由は、その規模の大きさだけではないようだ。彼らは、その「質」の面でも、注目すべき特徴を持っているのだ。ガーナ人経済学者のジョージ・アイッティ氏は、アフリカの若者世代を「チーター世代」と名づけている。彼らが、親の世代と異なる価値観を持ち、民主主義と透明性、汚職の根絶を求めて、かつてない速さで前進していこうとしていることからだ。チーターたちは、政治変革と経済促進の原動力としても、新たな消費者としても、大きな可能性を秘めている。アイッティが言うように、アフリカの未来は「チーターたちが担っている」と言えそうだ。
そのチーターたちが抱く希望と、彼らへの周囲からの期待は、教育への大きなニーズを生み出している。パソコンや情報通信技術(ICT)など、新技術を駆使した教育システムも導入されつつあり、2007年には、10年間で60万校のeスクールを設立するプロジェクト「アフリカ開発のための新パートナーシップ」が立ち上げられている。また、MIT創設者ネグロポンテ氏の主導する非営利活動「ワンス・ラップトップ・パー・チャイルド(子ども1人にパソコンを1台)」や、インテルの廉価パソコンを用いた営利目的のベンチャー「クラスメイト」など、非営利・営利ともに、様々な技術や資源、アイディアが教育に投入されている。
高等教育へのニーズの拡大に伴い、最貧困層の学生でもビジネススクールで学べるような、独創的な大学も生まれている。南アフリカのヨハネスブルグのCIDA(コミュニティおよび個人開発協会)は、校舎や書籍、コンピュータ機器など全てを寄贈品で賄っており、学生はほぼ無償で学ぶことができるのだそうだ。就職面接の際にはスーツなどを「衣装ライブラリー」(これも寄付された衣類によって設けられている)で借りることもできるというから驚くが、CIDAでは、この一校に留まらず、アメリカ中に同様のキャンパスを運営する準備を進めているという。
CIDAのケースは、「教育機会」という言葉が、「希望」や「期待」と密接に結びつくものであることを思い起こさせてくれる。それが、個人の将来にとってだけでなく、社会全体の未来にとっての「希望」であり、「期待」であることも。必要とされるものの中身は、国によって、あるいは時代に応じて異なるかもしれないが、その根本は普遍なのだ。「若」くはない日本でも、全ての人の「希望」や「期待」につながることとして、教育に関する議論ができたなら、と願う。
※ ヴィジャイ・マハジャン(著)・松本裕(訳) (2009) 「アフリカ 動きだす9億人市場」 英治出版