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てら子屋コラム

「誇り」を感じた、3つの学び場
中間 真一

 このコラムで何度か話題にしてきたが、HRIの「学び」研究の原点とも言える場として、風の谷幼稚園がある。昨年、開園10年目を迎え、ますますの充実ぶりだ。先月、こどもの日にNHKの1時間番組として、「ママがのぞいた子どもの時間~風の谷幼稚園の父母のビデオから~」が放映された。かなりの好評ぶりで、今月15日には再放送があるらしい。内容は、園児の保護者が長期にわたってホームビデオで撮り貯めてきた保育の様子をもとに、子育て真っ最中の父母や、専門家らがやりとりしながら進めていくというものだ。

 開園10年の節目に立ち、『5歳の誇り~あの風の谷の子どもたち~』という、年長クラスの1年間の保育実践を、担任の教員がありのままに綴った本も同時に出版された。現在進められている教育再生懇談会では、幼児期の教育の重要性が指摘されているようだが、この番組を観て、本を読んで、子どもが「育つ」という人間ドラマを感じとれば、幼児期の教育が、なぜ重要なのか?なにが重要なのか?はっきりわかると思う。たった3年間、たった3~5歳の人間の営みに過ぎないのに、社会の一員としてのスタート、集団そして自分の中での葛藤を経て、もっと大きな人間に成長するための芯とも呼べる「誇り」を獲得していく様子がひしひしと伝わってくる。子ども達は身体と心をフルに使って、自ら成長しようとしている。

 第二の場、先日、自由学園という学校の「食の学び一貫教育発表会」に参加してきた。これまで3年間かけて、幼稚園(幼児生活団)から大学(最高学部)まで全学園を挙げて一貫テーマ「食」のもとに進めてきた学びの取り組みの発表会だ。

 自由学園という学校は、最近目立っている、大学受験対策を公立校より効率的に進めようとする中高一貫教育や、大学全入時代対策として早めに生徒を囲い込もうとする大学付属一貫教育とは明らかに一線を画し、開学理念に基づく一貫教育にこだわる稀有な学校だ。創立者の「生活即教育」という考え方のもとに、「よく教育することは、よく生活させることである」として、生活から学ぶことを重視している。

 女子部と呼ばれる女子中高生は、今も毎日380名分の昼食を自分達でつくる。さらに、ご飯はかまどに薪をくべて炊いている。男子の中高生は、校内で野菜づくりや養豚を、那須の農場では米づくりや酪農を手がけ、食材の生産に精を出す。小学生たちは、そのような安心できる食材と父母の協力による暖かい昼食を、毎日全校生徒と先生がそろってとる。発表会の当日、私達参加者は昼食をご馳走になった。先日まで中学1年生たちが世話をしていた豚を挽肉にして使ったハンバーグだった。おいしい。しかし、心をこめてその豚の世話をし、育ててきた中学生の彼らは、「おいしい」だけではすまないはずだ。「生かし、生かされる」ということを悲しみやありがたさの重なり合った、私にも知り得ない感覚を味わっているのだろう。私は、食後に校内を案内してくれた学生に尋ねてみた。「こういう食事をしていると、大学生になってもファーストフードのハンバーガーなんて食べる気にならない?」と。彼は、気張ることなく答えてくれた。「う~ん。やはり、めったに食べません。たまに食べるとおいしいと思います。だけど、やっぱり好きにはなれない」、これこそ誇りではないか。

 第三の場、かの有名なムラタセイサク君との対面がかなった。超スロースピードで自転車をこぐロボットだ。実演でS字カーブの平均台の上で自転車をこぎ始めるのを固唾を呑んで見守る。「あっ」カーブで失敗しかける。壇上で説明するのは開発メンバーの一人。最初はショーマンシップを発揮していたが、次第にエンジニア魂を露わにし始めた。時間もあるし、「今日は、ちょっとセイサク君の調子が悪く・・・」とか言ってニコニコ終えるのかと思いきや、そのエンジニアの表情は、みるみる真剣になり「これでは、帰れません」と言って、おもむろに自分の黒いバッグを持ち出し、床面の反射する部分に置く。「おっ」難関カーブをクリア!あとわずか!そこで会場から誰かが「セイサク君、頑張って!」の声。思わずその開発者は熱く「ありがとうございます!」で完走と大拍手と「どうだ、やったぜ」の満足な表情。

 3つも場面を紹介していたら長くなり過ぎました。飽きずにここまで読んでいただいた方なら、言いたいことは、たぶん伝わったでしょう?ホコリっぽい世の中で、清々しい誇りを感じられる3場面だったというわけです。そして、誇りは誇りある人間から伝わっていくのだなと。さて、自分のほこりは・・・


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