先月、書籍「男たちのワーク・ライフ・バランス」を発刊した。調査のためにインタビューをする中で多くの人から聞かれたのが、子どもの存在が親のワーク・ライフ・バランスにもたらす影響の大きさだった。
とくに小さな子どもを持つ人にとって、「ワーク」と「ライフ」の両立は切実な問題だ。 それまでの生活からの変化に戸惑う人も少なくない。保育園になかなか馴染めず、「ママー!」と泣く子どもを預けて仕事に向かう道、あるいは、途中の仕事を残してオフィスを後にし、子どもを迎えに行く道で、「子育てをしながら仕事を続けるなんて、自分には無理なんじゃないか」と泣きたくなった、という話を聞いていると、こちらまで涙が出そうになる。そんなふうに毎日をやりくりする中で、それぞれが、自分なりの「バランス」を見出そうと一生懸命だ。
インタビューに応じてくれた女性の一人は、「子どもの誕生を機に仕事の内容が変わった。以前のようにばりばりと仕事をする面白さを感じることは少なくなってしまったけれど、今はそれでいいと思っている。子どもとの時間が確保できるし、周りに迷惑をかけずに仕事ができるから」と、今の気持ちを語ってくれた。自分にとって何が大切かをわかっている-彼女の穏やかな口調には、そんな自信と強さが感じられた。
その一方で、希望のバランスが実現できずに悩む人もいる。「子どもに負担のかからない働き方をと思うと、以前のような働き方はできない。思うように残業できないので、大切な仕事を任せてもらえなくなった」と、悔しさを語ってくれた女性もいた。「仕事も子育ても、どちらも大切で、あきらめきれない」-そんな彼女の気持ちも、よくわかる。「欲張りすぎ」「わがまま」と言ってしまえばそれまでかもしれないが、本当にそうなのだろうか。そんな疑問を感じずにはいられなかった。
そんな思いを抱きながらインタビューを進めていくうちに、あることに気づかされた。「仕事も子育ても大切にしたい」という気持ちが「わがまま」とされてしまう環境は、女性だけではなく、男性にも生きにくさをもたらしているのではないか、ということだ。
インタビューの中で男性の口から語られたのは、男性が「ライフ」に時間やエネルギーを割くことが前提となっていない、働く場のあり方、働く人の意識についてだった。そして、彼ら自身の多くも、子どもの誕生を機にはじめて「ワーク」と「ライフ」のバランスを考えた、あるいは考えざるを得なくなった、ということのようだった。そして、とくに男性の場合には、周囲にモデルとなるような存在が見つかりにくいことも、悩みの一因となっていた。
「仕事も子育ても大切にしたい」というのはわがままだ、と言ってしまうのは簡単だ。どちらかに専念できる人ばかりの状態は、一見すれば最も「効率的」に見える。しかし、女性も男性も、ワーク・ライフ・バランスに悩むのは、「ワーク」と「ライフ」どちらも大切にしたい、と願うからこそだ。一人ひとりが希望するバランスをみつけだし、大切にしたいと思うことのために、持っている力を十分に発揮できる環境こそ、豊かさをもたらすのではないか。
「男たちのワーク・ライフ・バランス」は、一人ひとりが希望するバランスを見出すヒントにしてほしい、との思いを込めて製作したものだ。この中に、一人ひとりの悩みや価値観に沿って、ヒントとなる情報をみつけてもらえたら幸いだ。
●「男たちのワーク・ライフ・バランス」
【出版社:幻冬舎ルネッサンス/価格:1300円(税別)】≫内容をみる