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てら子屋コラム

女子高校生社長の挑戦
鷲尾 梓

 「次から次へと起こる問題にどう対処すればいいか、マニュアルには何ひとつ書かれていなかった」
 経済教育団体のジュニア・アチーブメント日本が実施するスチューデントカンパニープログラム(SCP)で、「社長」を経験した女子高校生が語る。

 SCPは、中学・高校生を対象とする会社経営体験プログラム。1株100円の株を100株売って、10,000円の資本金を元手に、学校の中に株式会社を設立し、社長以下、営業部・経理部・人事部の部長と社員が16週間にわたって会社経営を行う。どのような商品を作ってどのように売るか、いくらで売ってどう再投資するか、人が働くモチベーションをどう維持するか等、社会のしくみや経済の動き、人間関係について学ぶプログラムだ。

 経済教育の重要性や、企業家精神育成の必要性が叫ばれる中、生徒が「経営」を体験するプログラムは国内外でさまざまな形で導入されてきている。その成果や、優れた事例について書かれたものを読んだことはあったが、それらから、プログラムに参加した生徒の生の姿を伺い知ることは難しかった。プログラムは実際にどのような形で進められているのか?中学生や高校生が、「経営」を学ぶ必要があるのだろうか?・・・新しいこの動きに、私は興味と疑問の両方を抱いていた。

 今回、ジュニア・アチーブメント日本の主催するセミナーで、前述の女子高校生社長を追ったドキュメンタリーを見る機会を得た。そこに映し出されたのは、驚くほど普通の、等身大の高校生たちの姿だった。手づくりのキャンドルを販売するという事業を選んだ彼らが直面したのは、「商品が売れない」「資金が足りない」という問題より、むしろ、「社員のモチベーションが低い」「商品の生産に使用した理科室の利用マナーが悪く、苦情を受ける」といった問題であった。

 解決方法が見出せず、たびたび立ち尽くす高校生たちの姿に歯がゆさを覚える。しかし、苦しみながらひとつひとつの問題を乗り越えていく中で、「社長」をはじめ、高校生たちの顔は目に見えて変化していった。その過程をみつめていると、彼らにとって「会社経営」という経験は高校生活という日常から切り離された活動ではなく、むしろいつもそこにある課題を際立たせる経験だったのではないか、と思う。

 「最後まであきらめなければ、目標にたどり着ける。失敗しても、その経験を次に活かすことができることを学んだ」「本気でぶつかれば、相手も心を開いてくれることを知った」・・・その要素のひとつひとつは、学級活動や部活動、友人関係など、必ずしも「会社経営」という形でなくても経験することのできるものだ。

 では、「会社経営」という形がもたらしたものとは何だったのか。女子高校生「社長」がぽつりと口にした「ここまで追い込まれて必死になることがなかった」という一言が、強く印象に残っている。「嫌われたくなくて、自分の意見を言うことができなかった。『倒産』の危機に直面したときはじめて、人に嫌われることを恐れず、無心になって、そのとき自分がやるべきこと、言うべきことを考えることができた」・・・周囲に対する責任を負うという状況が彼女を「追い込み」、それまでにない経験をする機会をもたらしたのだった。

 同じ経験をしても、その経験から他の「社員」はまた別のことを学んだのかもしれない。現在のところ、それぞれがこのプログラムから何を学んだのかを知る手がかりは、彼らを見守り続けた担当教師による記録と、彼ら自身の言葉、表情しかない。また、同じプログラムを他の学校で実施した場合に今回と同じ成果が得られるとは限らない。しかし、学校内外の大人がそれぞれの立場から知恵を出し合い、真剣に関わり合う中から、新たな機会が生まれていることは確かだ。学校で何を学ぶべきか、どうすればより豊かな機会を作れるか、正解やゴールのないこの問いに、社会全体で取り組むときが来ている。


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