未来スコープ

“バリフラット”な未来型組織のカタチ

~株式会社ISAO・中村 圭志氏~

2019.04.01

自律社会における組織や経営は具体的にどのようなものなのだろうか。働き方や個人のありようはどう変わるのだろうか。その手がかりを探るべく、管理職0(ゼロ)、階層0(ナシ)という日本初の“バリフラットモデル”を導入し、未来に先駆けた新しい働き方を提案している株式会社ISAOの中村圭志氏に話を伺った。

中村 圭志氏

株式会社ISAO中村 圭志氏

株式会社ISAO 代表取締役。1993年、千葉大学工学部卒業、同年4月に豊田通商株式会社入社。2010年10月、株式会社ISAO代表取締役に就任。
“世界のシゴトをたのしくするビジョナリーカンパニー”にするという2020年までの中長期目標を掲げ、Team ISAOの一員として経営を行う。

いまの日本社会の課題とは

日本の社会は流動性が乏しく、世界の成長からもいつの間にか取り残されている。どうしてこんな状況になってしまったんでしょうか?

その最たる理由は、日本をリードするべき大企業の組織が、膠着したヒエラルキー構造になっていること。また、そういった大企業に入ればそこにいるだけで給料がもらえる仕組みになっているからではないか、というのが僕の考えです。

企業のヒエラルキー構造は、高度経済成長期の大企業には合っていた戦略だったのかもしれません。「今こうで、次はこうなる」というリニアな将来予測を、プロダクトやサービスにも、個人のキャリアにも、あてはめることができる時代でした。ですがインターネットの登場以降、いろんなことが劇的に変わってきました。プロダクトはコモディティ化し、UberやAirbnbなど、既存の延長線上ではないプロダクトやサービスが既存のマーケットを破壊してきた。

つまりこれからはリニアな成長戦略からかなり道を外したチャレンジをしなければ生き残れないという社会環境に、日本もさらされていると捉えています。

「本当の生産」にあてる時間を最大化する

大企業で働いている人たちを見ていると、みんなすごく忙しいんですよ。そんなに忙しいならそれなりにアウトプットが出てきても良いのに、ムダなことに忙しいだけのことが多い。書類を書くとか、予算の数字を確認する、説得するための資料をつくるために1週間徹夜したりとか。

僕の考える「生産」とは、新たなビジネスや顧客、プロダクトやサービスを生み出すためへの取り組みです。今までの延長線上の思考ではなく、時には現状を否定し、自由に発想することが重要です。

今現在、ムダな作業に今の勤務時間の7割を占められているとしたら、それを1割にまで減らして、効率化された時間を新しい挑戦に向けた「生産」に割り当てることが必要です。そのために企業の根本的な考え方や組織文化を変革するということがISAOで取り組んでいることです。

“バリフラット”モデルへの組織変革

僕がISAOに来たのが2010年。当時、すでに何年も赤字が続いていました。社長が10年で10回変わるなど経営も不安定でした。

従業員満足調査の結果もひどくて、社員の7割が会社の将来に絶望、3割が無関心、ポジティブに捉えているのはたった1名という状況でした。調査をしてくれた人に言われたのは「体力のない患者に大手術はしないでくださいね。死にますから」。そうは言われても企業再生のプロセスは綺麗事だけでは済まされない。かなりハードな“大手術”をやらないとダメだと判断し、痛みを伴う覚悟で大改革に踏み切りました。

改革の核となったのが “バリ(=超)フラット”モデルと呼んでいる組織形態への移行です。“バリフラット”とは、「階層」「役職」「部門」「情報格差」を無くした組織形態のこと。超オープンでいろんなタテ・ヨコの溝が無い組織ということはメリットばかりで、困ることは特にありません。

給与情報までオープンにしてみた結果

「情報格差」が無いということが“バリフラット”経営の大きなポイントです。情報格差は社内の力の格差を生み出します。ISAOでは代表取締役である僕、新入社員も含めた社員、アルバイト、同じレベルの情報を持つことを目指しています。そうすることで、全社員が経営観を持ちながら、全員でビジョン達成を目指す組織に変わったのです。

そのためのプラットフォームとして、「ゴーラス(Goalous)」という社内コミュニケーション用のSNSを開発しました。これによって経営情報、人事評価、給料ランク、交際費などの情報が全員に共有され、目標をオープンにし、活動を共有することでコラボレーションがうまれ、チーム力を高めることができるようになりました。

給料についてお話しすると、2010年に初めてISAOに来た時、経理部のアシスタントが営業部のエースよりも給与が高かったことに僕はびっくりしました。これは一例ですが、会社全体で給与制度が統一されておらず、情報もクローズだから疑問視する人もいない。

会社をこういう風に運営するんだぞ、こういう挑戦をしている人を会社はちゃんと評価するんだぞ、という意思は人事評価に現れます。ですからまず人事評価制度を変えることが重要だと判断し、新しい等級制度をつくることにしました。

当時はもう大荒れでした。納得の行かない人に対しては、一人ひとりに納得してもらえるまで対話を重ねました。給与が下がる人もいましたが、100万円ぐらい上がる人もいて、全体としては少しだけ給与水準が上がって落ち着きました。いまでは等級や昇給情報、そこに至る評価などもタイムリーに「ゴーラス」で公表し、お互いの評価に納得しながら成長を目指せる環境を実現しています。

このような組織改革に始まり、経営理念の見直し、事業再編をはかった結果、2012年7月以降は黒字化し、それ以降は売上も利益も順調に推移していきました。

管理職ゼロ、階層ゼロが実現する完全「プロジェクト型」組織

ISAOには階層も役職も部門もありません。全ての仕事はプロジェクト制です。経営、人事、各事業、経理まで、すべてがプロジェクトとして並列に並んでいます。

プロジェクト運営はかなり民主的です。普通の企業では部長はいつでも部長。しかし本来はプロジェクトごとに適性のある人がリーダーを努めるのが自然なはずです。ISAOでは一番適性のある人がリーダーとなり、リーダー自身がメンバーを募ってチームをつくります。一人が複数のプロジェクトに関わっているので、Aプロジェクトのリーダーの人が、Bプロジェクトではメンバーだったりすることもあります。プロジェクトを続けていく中で、メンバーが現リーダーに違和感を持ち始めた場合はリーダーが交代することもあります。階層も役職も無いので、交代もあっという間です。

部署がない効能というのはとても大きい。いろんなテクノロジーや事業領域が融合して新しい価値をうみだすことが求められる現在では、多くの企業で部署を超えた連携が求められています。しかし、部署を超えて若手同士で一緒に何かやろうと盛り上がっても、そのアイデアを所属長に相談したり、部長同士が相談したり、リサーチ予算をどっちが持つのか揉めたり、スタートまでにとても時間がかかる。動きの速い会社であれば10秒で始められることができない。そんなムダが一切発生しないというのが“バリフラット”組織の強みです。

自律的な目標設定と評価のしくみ

僕の信念は「人は他人からやらされたものでは力が出ない」ということ。人間、自分で決めたことでしか全開の力は出せません。ですからISAOでも、会社の“オープン・チャレンジ・キズナ”という大きなビジョンに沿った形で、個人やチームが各自で目標を設定する運営にしています。目標のレベルも、自分たちの今の全力を出し切ったら到達できるようなものではなく、さらに上に行くようなストレッチなゴールを掲げてもらいます。

多くの企業では、MBOなど目標達成度で評価する制度を導入していますが、達成度で評価しようとすると、ボーナスを減らされたくないから自分の今の実力の範囲で達成できそうな目標、あるいはそれ以下の目標を設定する、といったことが起きてしまいます。

僕自身も大会社での経験からそういう心理はわかります。ですからISAOでは目標の達成度では評価しない。達成したかどうかだけでは評価しないので、とにかく今の実力よりもさらに高いところを目指すストレッチな目標を掲げよう、と言っています。自分が今いる場所から成長することにコミットできる人だけがISAOにいる権利を手にできるのです。

自分の目標に対して「今日はどれだけアクションしたのか」を可視化するために、ここでも「ゴーラス」が役に立っています。例えば僕は2018年度の下期には「『ゴーラス』を50社に紹介営業する」という目標を設定して、それに対しての活動を日々投稿しています。オープンにすることでみんなからからコメントや「いいね!」などのリアクションがもらえるので、気合いが入ります。

真っ黒な盤面が、あるとき真っ白に変わる

“バリフラット”システムが100~200人規模の組織でうまく機能していくことはISAOで実証済みです。これが10,000人の規模の組織になったときにはどうか?答えはイエスです。しかし、そのためのガバナンスには一工夫が要るとも考えています。

「“バリフラット”は確かに素晴らしいけれど、うちの組織の体質はまだまだ古いからな」という声をよく聞きます。「『ゴーラス』を使ったら社員をうまく管理できるの?」と尋ねられることも少なくありません。その度に僕は「“管理”はできません。これは社員が自律的に情報発信するためのツールですから」と答えるのですが、“管理する”とか“コントロールする”という思想自体を放棄できる企業はまだ多くはありません。

ですからまずは オープン&フラットの理念に共感してくれるトップやキーパーソンを確実に押さえて、組織変革にコミットしてもらうことが重要です。残念ながらそのための近道はありません。

ISAOでの僕自身のやり方はかなり泥くさいものでした。正面切って相談を持ち掛けると構えられてしまうので、偶然帰り道が一緒になったふりして一対一で飲みに行くとか。地道に一人ひとりと思いを共有していく機会を増やしていきました。こうした組織改革は、例えるならオセロで真っ黒になっている盤面に一人で「白」として入っていって、真っ白にしていくような作業です。手間も時間もかかります。直接コミュニケーションとしてぽつぽつと「白」を増やしていく。そうしているうちにある日、直接関わっていないのに「白」になる人が現れる。それはすでに「白」に変わった人たちの間に挟まれた人が彼らに影響を受けて「白」になったということです。そうした変化が増えてくると、ある瞬間から加速度的にパタパタパタと白にひっくり返っていきます。組織全体の変化はある日突然、ダイナミックに起こり始めます。最初は少しずつ地道に共感を広げていくことで、最終的にはどんな組織でも変革できるなという感覚はあります。

聞き手のつぶやき

整体やボディワークというのは、身体の本来の状態を取り戻すための施術だと言う。「バリフラット化」もある意味、企業組織への“整体施術”なのかもしれない。それは大胆で画期的な革命ではあるのは間違いないが、通底するビジョンは、人間のこころに素直な能動的成長を促す仕組みや、人間が集合して協働する際の極めて自然で合理的な自治のあり方を実現することなのだ。長年の習慣で蓄積した歪みや硬直を取り去ることは容易いことではないというのは中村さんのお話しにもあった通りだが、バリバリボキボキと時には派手な音を伴う確かな施術の先には、すっかりほぐれて軽くなった、健やかな自律的な人間と組織共同体への回帰が待っているのだ。
(聞き手:澤田美奈子)

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