HRI×フロンティア

人と機械の関係の未来ビジョン

2017.04.03

『対談シリーズ:人と機械、そのインタラクションの未来を語る』 ②前篇

~②ヒト の発達からみた、ヒトとロボットのインタラクション【前篇】~

vol.1:ロボットとヒトの共生は可能か

対談
明和 政子:京都大学大学院教育学研究科教授

佐倉 統:東京大学大学院情報学環教授

コンピュータが、囲碁の世界王者を破る。可能性はあると言われていたものの、まさか本当に起こるとは考えていなかった事態が、現実のものとなった。AI、ディープラーニングの進化は凄まじく、もはや人間の予想を超える。では、そうした人工知能を積んだハード、つまりロボットはこれから先どのように進化するのか。Pepperが話題になり、ホテルの受付もロボットが代行する時代である。人間社会に否応なく入ってくるロボットと、私たちヒト は、どのように共生すればいいのか。「比較認知発達科学」という新分野を開拓した明和政子教授と、科学技術社会論の観点から考える東京大学佐倉統教授の対談3回シリーズでお届けする。

信頼関係の本質とは

佐倉:ヒトとロボットのインタラクションについては、いくつかの切り口があります。中でも最初に考えてみたいのが、信頼関係です。そもそもヒトは機械と信頼関係を結ぶことができるのでしょうか。

明和:信頼関係を構築できる相手とは、自分の予測・期待通りの行動を返してくれるヒトだと思います。

佐倉:予測ですか。

明和:自分がこうすれば、相手はこうしてくれるというように、経験に基づいてヒトは相手の反応を予測していきます。その予測通りに返してくれる確率の高い相手を、ヒトは信頼するのだと思います。

佐倉:なるほど。確かにその通りですね。

明和:専門用語で「内部モデル」と呼びますが、内部モデルによる予測との誤差が大きくない相手を、仲間(内集団)として信頼します。逆に予測から離れた反応を返す相手、予測が難しい相手(外集団)を信頼するのは難しい。

佐倉:ロボットはやはり機械なので、どんなに精巧にできていても、私たちがもつ内部モデルと同じということはないように思います。つまり、予測が難しい相手なのではないでしょうか。

明和:実はその点をとても心配しています。

佐倉:どういう意味でしょうか。

明和:今後、仮にロボットとの共生社会が実現するとします。これまでとは異なる新たな環境で子どもたちが育っていくとき、彼らの対人関係に関する内部モデルが現在とどう変わっていくのか。ロボット共生以前の社会で育った私たちとは、違ったものになる可能性があります。その意味で、「これからの」ロボットとヒトが信頼関係を築けるかという問いには、簡単には答えられないのです。

佐倉:最近の子どもたちは、物心がつく前からタブレット端末などをいじっていますね。そういうものに対する感覚は、私たちの世代と子どもたちでは変わってくるだろうし、そうした変化が効いてくる可能性があるわけですね。

ミラーニューロンと扁桃体の関わり

明和:私たちの脳内には「ミラーニューロン」があります。この神経細胞は、ある行動を自分が行っているときと他人がそれと同じ行動を行っているのを見聞きしたときの両方で活動します。さらに重要なことは、このニューロンは、情動に関する情報を処理する「扁桃体」と強いコネクションをもっていることです。

佐倉:ミラーニューロンは、アカゲザルで見つかったんでしたね。

明和:はい。ただ、扁桃体とミラーニューロンのコネクションがこれだけ強いのはヒトの特徴のようです。ここが進化の面白いところですが、ミラーニューロンは進化の過程で、ヒト独自機能を獲得してきたと考えられます。例えば私たちは相手が笑っていると、自分もつられて笑ってしまう、うれしさがこちらにも伝わってくる気がするでしょう。

佐倉:サルは、人間と同じような意味では笑いませんよね。

明和:サルも威嚇の表情など鏡のように共鳴することはあると思いますが、相手の感情を自分のことのように感じてしまうのはヒトだけだと言われています。
佐倉:僕のミラーニューロンに関する知識は10年ぐらい前で止まったままなので教えていただきたいのですが、扁桃体との結び付きがあるのはヒトだけなんですか。

明和:ミラーニューロンシステムと扁桃体とのコネクションがあることは構造的にわかっています。ロボットの話に戻すと、幼少期からロボットに囲まれて育った子どもたちは、ロボットに対して感情移入しやすくなる、あるいは逆に、ロボットが情動信号を表出しなければ、相手の感情を自分のことのように感じる経験が乏しくなってしまう可能性があるのではないか、と考えているのです。

佐倉:ロボットを「好き」とか「心地いい」と感じてしまうわけですね。それはどれぐらい可塑性があるのでしょう。

明和:その質問に応えるのは難しいですね。仮に今の子どもたちの脳を20年後ぐらいに調べてみれば、機能や構造が変わっている可能性を否定できないでしょう。実際、アメリカではそういう研究が進められています。

佐倉:子どもたちとロボットの関わりをテーマとした研究ですか。

明和:9歳から20歳ぐらいの子ども、1万2,000人ぐらいを対象に遺伝子、内分泌、MRIと認知検査を毎年、全米19カ所で行っていくようです。

佐倉:コホート研究(同じ年に生まれた集団を何年にも渡って追跡調査する研究)としては、かなり壮大な規模になりますね。

明和:今の子どもたちを見ていると、デジタル演算処理に関する情報処理能力は長けているけれども、社会的な場面の空気を読むなど、複雑な情報の流れから意味を抽出する能力は弱くなっているような気がします。

ロボットとの共生はヒトをどう変えるか

佐倉:ぼくたちの世代がロボットに対して共感をもたないのに対して、ロボットに囲まれて成長する子どもたちは今後ロボットに共感を覚えるようになると仮にします。それが何か問題なのでしょうか。そうなったからといって、必ずしも普通の生身の人間関係がなくなるわけではないと思いますが。

明和:いま、私と佐倉先生は目を合わせて話していて、100分の1秒単位のタイミングでダイナミックな情報の流れをやりとりしているでしょう。ところがSNSでのやりとりはその中身が顔と顔をつきあわせた(情動情報を中心とする)やりとりとはまったく違いますね。

佐倉:インタラクションのあり方が、ヒトと対面している場合と、ロボットを相手にする場合では違う、と。

明和:もし子どもたちがロボットを相手にして成長するとどうなるのか。ヒトを相手とするインタラクションの中身自体が変わってしまうおそれがある。あまり意識されていないけれども、じつはこれまで人類が経験したことのない未曾有の事態が起こっているのではないでしょうか。

佐倉:かなりネガティブな受け取り方のようにも思いますが。

明和:ロボットとの共生は、避けられないと思うのです。ここまで来たら、もう後戻りできない。だとすれば、ロボットにはどんな機能を実装することが人類の進化に適応的であるのかを考えること私たちの務めかなと。そうじゃないと、これまでとは違うタイプのインタラクションをするホモ・サピエンスが生き残り、進化していく可能性もあると思います。

ロボットにはない内臓感覚

佐倉:ロボットに対してヒトに対するのと同じようにインタラクションしてしまうのが問題なら、ロボットを人間に似せて作るのではなく、あくまでも機械だと明示するような形やインターフェースにすればよいのではないでしょうか。

明和:今のロボットはディープラーニングを活用して、こういう発話に対しては、このように反応するといった学習能力には長けています。けれども「内臓感覚」は持っていないでしょう。

佐倉:内臓感覚?

明和:ヒトは「痛い」とか「熱い」、「お腹がすいてる」「おしっこしたい」などの身体の感覚を持つでしょう。そうした要素をロボットに作り込むことができれば、よりヒトらしい心をもつようになると思います。

佐倉:なるほど。けれども、そこで考えるべきは、そこまで精緻に作り込むロボットが、一体何のために必要なのかという話ですね。そもそも仕事中におしっこに行きたくなるようなロボットなんて、作業の効率を下げるだけなんじゃないですか。ロボットの研究者たちは、内臓感覚まで備えたロボットを作ろうとしているのでしょうか。

明和:私の知る限りでは、ヒューマノイドロボットの設計に携わっておられる研究者の方がたは、内臓感覚の重要さはわかっているものの、実際に作るのは難しいと言っていますね。それより介護ロボットや子育てロボットを作るのが人類への貢献度という点で期待されているようです。

ヒト=動物関係vsヒト=ロボット関係

佐倉:ロボットとヒトの関係を考える上で参考になるのが、ヒトとペット、たとえばイヌとの関係だと思います。ヒト対ヒトの関係と比べれば、ヒト=イヌは思い通りにならないところがあったり、関係性として不十分というかプリミティブな部分がある。将来的にはヒト=イヌ関係ぐらいに、ヒト=ロボット関係もなるのでしょうか。

明和:難しいのではないでしょうか。

佐倉:でもペットロボットのAIBOが一時期、流行ったでしょう。あれはイヌの形をしたロボットだったからではないでしょうか。

明和:イヌだと思って買ったけれども、イヌじゃなかったから売れなくなったのだと思います。ヒトの報酬系は複雑で、同じ反応が繰り返されるとドーパミン(運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる神経伝達物質)の放出が弱まっていくのです。

佐倉:飽きちゃうわけか。

明和:適度に予測を超えたことが起こると「快」の感情が生まれ、ドーパミンがまた放出されます。逆に同じことが続くと放出が弱まっていく。イヌは予測通りに行動してくれることが多いので信頼関係が築きやすい(内集団)ですね。イヌはヒトの視線を読むし、あくびがうつったりもします。ですが、機械のように100%同じ反応を返すわけではないでしょう。

佐倉:あくびまでうつるんですね。

明和:イヌは家畜化されて進化してきた動物だから、ヒトの微細な行動・表情のシグナルにとても敏感です。最近の研究では、チンパンジーよりずっとヒトの行動を敏感に認識するとも言われています。イヌはヒトの期待通りに応答してくれるので、愛着がヒトにも喚起される。お互いにオキシトシン(幸せホルモンや愛情ホルモンとも呼ばれ、ストレスを緩和し幸せな気分をもたらすホルモン)が高まって、良い関係が生まれるのです。

佐倉:そういう生き物を、人類は長い時間をかけて作りあげてきたわけですね。

明和:ヒトの喜憂を読む遺伝子を持つようになったのかもしれません。

佐倉:イヌやネコなどヒトのペットになる動物の種類が限られているのは、遺伝的な性質が関係しているわけですよね。そう考えるとヒトと動物の関係と、ヒトと機械の関係は根本的に違うことになりますね。

明和:むしろヒトとはまったく異なる身体を持った機械であれば、ヒト=機械の関係において、これまでにない新たなコミュニケーションの予測原理(内部モデル)を作り上げる可能性があります。ところが、ヒトに似たロボットだと、ヒトこれまで学習、獲得してきた脳の内部モデルを使用するでしょうから、内部モデルが微妙に変化していくリスクがあるように思います。こうした事態は、倫理的問題をはらんでいると思いますが、今のところ検討されている気配がありません。とても危惧すべき問題ではないかと感じています。

(vol.2につづく 【4月10日更新予定】)

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