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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(25)】
優しい国スウェーデンの難民受け入れと締め出し

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2016.02.01

スウェーデンは基本的に外国人が入ってくるのを歓迎している。人口が増えれば経済的、社会的、文化的に国力が増加すると考えているからだ。1970年代にはハンガリー、ポーランドなど、いわゆる東側諸国からの流入者が増えた。彼らは「難民」ではなく「労働移民」で、拡大するスウェーデン社会での低・中級労働者層を形成した。その後1980年代には南米から、1990年代には中東からの「政治亡命者」が流入した。チリやイラン、イラクからの人々で、祖国の内戦や近隣諸国との紛争を逃れてきた彼らは比較的高学歴であり、受け入れたスウェーデンではスウェーデン語を素早く彼らに教え、直ちに国内の労働市場へ送り、彼らは基礎学校教師などの中級専門職従事者となった。2000年代に入るとアフリカからの難民が増加した。それまでの移民・難民とは異なり、彼らは内戦の続く祖国でろくに学校にも行っていなかった若い人々だった。スウェーデンはそれまでスウェーデン語さえ補完すれば比較的早い時期に労働市場へ出て、国家に納税してくれる、という前提を覆されて困惑した。2010年代になると内戦から逃れるシリアからの難民が増えた。彼らはアフリカ難民とは異なり、比較的裕福で学歴のある人々だった。

そして2015年、トルコ経由で地中海を渡るシリアおよびアフガニスタンの難民が急増し、ヨーロッパ中に押し寄せてきた。スウェーデンのロベーン首相は当初、ドイツのメルケル首相とともに腕を広く広げ、イタリアに上陸し、ヨーロッパを北上してくる難民を歓迎すると内外に発表した。

その後2015年11月12日国会に提案した難民対策臨時予算で総額110億クローナ(約1,540億円)の国庫補助金をコミューンに支給することとしたものの、国が受け入れの責任を市町村(コミューン)に丸投げしたために現場で混乱が起き、受け入れ予定施設が放火されたり、難民移動用バスに卵が投げつけられるなどの抵抗運動も起きた。その背景には、スウェーデンでは建設関連に関する厳格な法律(計画・建築法)があり、市町村は約3年後の計画まで認証を受けねばならず、野原や森に土地が余っているからといって急に仮設住宅を作ることができないという事情がある。市町村は使用していない建物を住居に改造したり、保養施設を借り受けたりして難民受け入れを図っているが、軍事用テントを駐車場に設置して急場をしのいでいるところもある。

こうした状況を受けて、2015年11月12日からエーレスンド橋のスウェーデン側およびドイツからのフェリーが着くトレレボリィ港等でフェリー乗客の身分証チェックを導入している。最初は20日間の臨時措置だったが、現在も延長が続いている。

そして2016年1月4日より、デンマークからスウェーデンに乗り入れる電車、バス、船舶などで、乗客の搭乗前に身分証(パスポート等)を確認するよう公共交通機関に義務付けられるようになった。乗客数が特に多いのはデンマークのコペンハーゲン・カストルップ空港から南スウェーデンのマルメまでの直通列車で、一日当たり約8,000~9,000人が乗車している。エーレスンド橋を挟むコペンハーゲンとマルメは一つの経済圏を形成しており、両方向からの通勤客も多いのだ。鉄道を運行しているデンマーク国営交通DSBとスウェーデンのスコーネ交通(Skånetrafiken)に乗客の身分証確認の義務が課せられたため、両社は新たに150人の職員を採用した。これによる費用は、1カ月当たり約900万デンマーク・クローネ(約1億6,380万円)と見積もられており、両社で半額ずつ負担する。デンマークとスウェーデンを結ぶバスや船舶の運航会社へも、同様に身分証の確認が義務付けられている。カストルップ空港とマルメ間の直行列車の場合、確認作業には1時間程度かかり、従来10分だった運行本数は半減され20分おきとなった。また、スウェーデン国鉄(SJ)はストックホルム・コペンハーゲン間の直行列車もマルメ止まりとしている。

スウェーデンの難民急増は、下図(2012年から2015年までのスウェーデンのける難民申請数の推移)からもうかがえる。スウェーデンに来る難民の特徴は、ティーンエイジャーが単独で流入する事例が多いことだ。これは、家族が難民あっせん業者に大金を支払い、子供一人だけをスウェーデンに送り込み、その子どもが難民として受け入れられると、従来は家族の呼び寄せビザを得ることが比較的容易だったことから、それにより一家全員で移民するという計画を背景とするものである。先に子どもだけを送るのは、子供の場合には受け入れられやすかったという状況がある。しかし、学齢期の子供の難民が急増したことで、教員や教室不足といった課題が急浮上し、受け入れた多くのコミューンが対処に苦慮するようになった。移民庁の発表では、2015年1月から10月までの間、単独で来た未成年の移民申請者数は2万3,349人に上った。ほとんどが13~17歳の男児である。未成年申請者の約半分(1万4,000人)がアフガニスタンからで、次いでシリアから(3,000人)だった。

外国人にやさしい福祉国スウェーデンは、新たな問題に右往左往している。

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