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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(12)】
ノーベル賞の季節

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2014.12.01

今年もまたノーベル賞の季節が巡ってきた。日本人3人が青色ダイオードの発見で物理学賞を受賞し、めでたい限りである。ノーベル賞は、ダイナマイトで巨額の富を得たアルフレッド・ノーベルの遺産をもとに基金を作り、その資金の利子収入から世界的な研究成果を生んだ学者に賞金を与えよ、という彼の遺言で始まったものだ(1895年に賞創設。1901年から授賞開始)。資金運用の利益が減ったために2012年から賞金がそれまでの1000万クローナ(約1億5000万円)から800万クローナ(約1億2000万円)に減額となったが、他に同じような額の賞があるとしても、ノーベル賞ほど「格式」のあるものは類を見ない。

カール16世グスタフ国王が受賞者にメダルを授与する様子が全世界に報道されるが、実はノーベル賞はスウェーデンの国や王室とは直接には関係なく、ノーベル財団というプライベートな財団が与えているものに過ぎない。王立科学アカデミー(物理学賞、化学賞、経済学賞)、スウェーデン・アカデミー(文学賞)、カロリンスカ研究所(生理学・医学賞)などの準公的機関が受賞者を決定しているのだから、まるっきり国と無縁というものでもないけれど。平和賞に関しては、スウェーデンとノルウェーが「連合国」であったことを反映して(1905年にスウェーデンとノルウェーはその関係を解消したが)ノルウェーのノーベル委員会が選定および授賞する。ノルウェーのノーベル委員会は上記のウェーデンの各種機関と異なって基本的に「政治家集団」なので、平和賞にはその時点の政治的な意思が働き、首をかしげるような受賞者が出る、という声も毎年当地マスメディアで取り上げられる。ノーベル経済学賞は正式には「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン中央銀行賞」で、1968年に創立され、1969年から授与が開始された。他の分野と異なり、経済学の分野で画期的な研究が毎年出るとは限らないではないか、という批判もよく聞かれる。

スウェーデン国民の一番の関心は王妃やプリンセス達が授賞式・晩餐会でどんなドレスを着ているか、に尽きるが、10月初めの受賞者発表の時期にはマスメディアなどでも、受賞した研究の解説が大きく報道される。

12月10日が挟まっている週は「ノーベル・ウィーク」と呼ばれ、受賞者が大学やアカデミーで講演を行ったり、学校を訪問したりする行事が詰まっている。ドレス以外に一般人に注目されるのは文学賞だ。科学に関してはその内容があまりよくわからないとしても、文学だったら誰でも一家言を持っている。大江健三郎が受賞した時には、見知らぬスウェーデン人から私の職場に電話がかかってきて「日本人が受賞したわね。おめでとう!」と言われ、「そうですね。ありがとう」と答えたものだ(それ以外になんと言えよう)。何十年も候補に挙がっていたものの、2011年になってようやく、スウェーデンの詩人トーマス・トランストレーメルにノーベル文学賞が授与されたときには、スウェーデン国民が歓喜した。ノーベル賞は基本的に亡くなった人には授与されないので、高齢(受賞時80歳)の彼に授賞が間に合うかどうか人々はやきもきしていたのだった。

近年では、毎年のように日本人が授賞している「イグノーベル賞」(1991年創設。人々を笑わせ、そして考えさせる研究対象)というのが有名になってきたが、スウェーデンには「もうひとつのノーベル賞」(Alternative Nobel Prize)と呼ばれるライト・リブリフッド賞(Right Livlihood Award)というものもある。これはヤコブ・フォン・ウエクスルというスウェーデン人ジャーナリストが自分の私財(切手収集の儲け)を投じて、正規ノーベル賞には含まれない、人権・環境などの分野で功績を残した人を称するために1980年に創設したものだ。今ではノーベル平和賞に人権活動家も含まれるようになって、ライト・リブリフッド賞の価値が多少霞んできたが、主として発展途上国の人民の生活の向上などに貢献した人々や団体に賞が授与される。もう一つのノーベル賞を受賞してから数年後に本家ノーベル賞(平和賞)を受賞した人々もいる。

ライト・リブリフッドの授賞式は今年は12月1日スウェーデン国会で、ノーベル賞授賞式は例年通り12月10日ストックホルムのコンサートホールで行われる。

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