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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(9)】
移民なしにはスウェーデンは止まってしまう

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2014.09.01

夏は陸上競技の季節。今年はオリンピックや世界選手権はないが、ジュニア世界選手権やヨーロッパ選手権があった。スウェーデンでは、毎年8月終わりか9月初めに行われる、スウェーデンとフィンランドだけの対抗試合、フィンキャンペンも人気だ。

ところで最近のスウェーデンの陸上競技で国際的に活躍するのはスウェーデン人ぽくない外見の選手が多い。走り幅跳びのミシェル・トレニウスや、短距離の新星アイリーン・エークルンドなど、白い肌・金髪のスウェーデン人のイメージとはかけ離れている。スウェーデン国内記録保持者であるミシェルは父がコンゴ・キンシャサ出身で母がスウェーデン人。ストックホルム市内の移民が多い地区ボットシュリカで生まれ、スウェーデンの大きなスポーツ・クラブであるハンマルビーに属している。北京オリンピックでは銅メダルに1㎝届かなかった。ジュニア陸上の200mで2位となった今年17歳のアイリーン・エーケルンドはブラジル系だ。もっと極端なのはモスクワ世界選手権1500mのチャンピオン、今回のヨーロッパ選手権では2位となったアベバ・アレガヴィ選手で、スウェーデン在住のスウェーデン国籍を持つエチオピア人と結婚してスウェーデンに帰化したのだが、その後離婚し、エチオピアに戻ってトレーニングをしており、国際競技のときにはスウェーデン代表として活躍している。エリトリアでジュニアとして活躍していたメラフ・バータは、その後難民としてスウェーデンにやってきて、5年後の昨年めでたくスウェーデン国籍を取得し、今年のヨーロッパ選手権5000mで優勝した。

ジャマイカやエチオピア、ケニアといった世界有数の陸上王国の選手が、世界各地に散って国籍を取得し、その国の代表となるという現象はよく見られるが、スウェーデンよ、お前もか、という感じがしないでもない。けれど、スウェーデン国民はあまり気にせずに、単純にスウェーデンが勝てばそれで嬉しい、というスタンスのようだ。アレガヴィ選手に関してはスウェーデンに住んでいない、スウェーデン語も話せないということで批判の声もきこえるが。

陸上競技だけでなく、サッカーでも、ズラータン・イブラヒモヴィッチ選手が世界的に有名だ。ボスニア人の父とクロアチア人の母をもつ彼は、南スウェーデンのマルメ市の移民が多い地区で生まれ育ち、サッカーで成功の階段を駆け上がった。現在はヨーロッパの有名クラブを転々としている。

アイスホッケーやスキー、水泳に関してはまだ「純粋」スウェーデン人選手が多いようだが、上述したように、スウェーデン人は外見にこだわらず、自国の代表が勝てば喜ばしく思っている、ように思える。

そもそも、スウェーデン現王朝であるベルナドッテ王朝は、ナポレオンの家来だったベルナドッテ将軍に端を発する。フランスの将校を王様に迎えれば戦争に勝ってくれるだろうとの期待をもって、フランスから王様を輸入したのだ、スウェーデンは。年は経て、現国王カール・グスタフ16世の王妃は、ドイツ人を父にブラジル人を母に持つ民間人だ。ミュンヘン・オリンピックのコンパニオンをしていた時に、グスタフ国王にアテンドして「会った瞬間に(この人こそ私のパートナーになる人だと、頭の中で)カチッと音がした」(国王の方が)というエピソードがほほえましく伝えられている。

そのような、外国人に対する垣根の低さ、つまり認容度の高さはスウェーデンの「伝統」だった。中立政策を標ぼうするスウェーデンは世界大戦に参加しなかったため、戦禍に疲弊した他のヨーロッパ諸国からの移民を受け入れた。彼らは拡大するスウェーデン経済の労働力として貢献してきた。清掃人や看護助手などは以前から移民が多かった。スウェーデン語がそれほど堪能でなくてもてっとりばやく労働市場に出られるチャンネルだったからだ。今でも清掃分野や介護分野の移民の割合は高い。ストックホルム県では介護従事者の25%は自身が外国生まれか、外国生まれの親を持つ人々だ。最近では、専門分野においても移民の割合が高くなっている。医療関係の専門職を見ると、歯科衛生士の50%、歯科医の40%、看護師の20%、医学分析技術者の33%が、自身が外国生まれか、外国生まれの親を持つ人々なのだ。

移民なしにはスウェーデン社会は機能しなくなるのである。

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