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暮らしの未来

【自律社会としてのスウェーデン(3)】
看病休暇の季節

三瓶恵子(ストックホルム在住)
2014.03.01

 2月はスウェーデン語で「フェブラーリ」(Februari)という。しかし最近では「ヴァブラーリ」(Vabbruari)ともよばれている。VabというのはVård av barn(ヴォード・アヴ・バーン)の略語で、子どもの看病休暇を指す社会保険局関連用語だ。社会保険局のホームページ(www.forsakringskassan.se)の第一面には「ヴァブラーリのためのいろいろなヒント」という内容が大きく出ていて、休暇の取り方、病児の看病の仕方などのアドバイスが掲載されている。

 スウェーデンでは子どもが病気になった場合、子ども一人につき1年間で最大120日まで看病のために仕事を休むことができる(最初の60日はチェックなし。その後の60日についてはチェックあり)。休んでいる間は社会保険から給与の約80%に相当する金額が親に対して支払われる。給料は日数分引かれる。

 幼児はすぐ熱を出すから、朝、出勤前に「ああ、これでは保育所に預けられない」と判断し、保育所と仕事場に連絡を入れ、病気の子どもに飲み物を与え、ため息をつく。そういう日に限って重要な会議の予定が入っていたりするので、夫(あるいは妻)が自分の代わりに休めないかどうかを真剣にかつ瞬時に議論する。ウチはもう子育ては終わったが、子育ての真っ最中、特に子どもが風邪をひきやすい2月にはどちらが休むか「じゃんけん真剣勝負」をおこなったものだ(スウェーデンにもじゃんけんはある。「石・ハサミ・紙」(ステン・サックス・ポーセ)とよばれる)。上記の社会保険局のページには「何時間か看病休暇をとって、何時間か仕事してもよいのだよ」とか「社会保険局への連絡は携帯電話の専用アプリが使えるよ」などというアドバイスもあった。

 私は毎朝いろいろ支度をしながらよくラジオを聴くのだが、ラジオの番組のパーソナリティーが結構コロコロ替わり「今日はクリスティーナ(いつもの人の名)は子どもの病気でお休みです」と、代行の人が「ヴァブラーリですからね」と付け加えたりする。日本だったら「大事件」になるかもしれないと思うけれど、スウェーデンでは聴いている人々も「あ、そう」と思うくらいだ。ビジネスでお役所や大会社に電話して、その相手が「ヴァッブでお休み」と言われれば、そこで引き下がるしかない。「誰か代理を、、」などといってもその人の仕事を代われる人はいないのだ。看護師などはピンチヒッターのプールがあるけれど、それも2月は皆病気になっているのでほとんど機能しない。で、実際のところ、普通の仕事は2,3日遅れようとほとんど支障は起こらないのだ、私の体験では。

 社会保険局の統計によれば、2000年以来父親が看病休暇を取る率が毎年徐々に上がっているが、それでも2013年の父親の取得率(取得日数で計算)は24.8%にすぎない(全国平均)。住んでいるコミューン(市)によって違いがあり、最も男性取得率の多かったビュールホルム市(Bjurholm。北部スウェーデン、ウーメオ市近郊)では34.2%、最も低かったエーダ市(Eda。中西部スウェーデン。ノルウェー国境の近く)では15.2%だった。

 社会保険局の分析では、高学歴で高所得の両親は看病休暇を平等にとる傾向がみられる。母親と父親がそれぞれ所得が高ければ、父親が休んで20%分所得が低くなっても、家計としては影響は少ない、ということだろう。これまでの傾向がそのまま続けば、2040年には男女が全く同じ比率で看病休暇を取得すると試算されているが、まあ、給与の男女差(どの職種でも約10%の男女差がある)が残る限り、まったく同じにはならないだろう。

 統計では父親が看病休暇をとるのは子どもが2~3歳の時だ。社会保険局では、子どもの看病休暇を単に経済的な要因(収入の多い父親が休むと損)だけから見るのではなく、家事・育児を平等に担当する家庭は離婚が少ない、といったような別の観点から見るべきだとコメントしている。

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