過去研究テーマ

学びの未来

【ゲッチョ先生コラム】カニのアシは何本?

盛口 満
2015.01.15

宜野湾市のH小学校に授業にでかける。

「僕のこと、覚えている?」

教室に入ったところで、一人の男の子に声をかけられた。

すまん。覚えていない。僕は人一倍、記憶力が悪いから......。ところが、彼としばらく話をしていたら、なんと彼のことを覚えていることに気が付いた。H小学校は、新設の小学校であるのだが、僕に声をかけた子は、O小学校から転入してきたという。以前、O小学校の2年生に虫の授業をしたことがある。そのときクラスメートから「昆虫ハカセ」の異名をとっていた男の子ではないか。そうそう、ヨシキだ。あれから3年、5年生になったヨシキはあいかわらず生き物のことが大好きだった。

今回の授業のテーマは「体づくりのルール」。最初の問題は、「カニのアシが描ける?」というもの。プリントに描かれた胴体だけのカニの絵に、アシを描きこんでみて......という問題である。簡単なようで、じつはアシの数についての回答がわかれる。さて、みなさんだったら、アシを何本描きこむだろうか。

H小学校では合計3クラスで授業をしたのだが、カニのアシの数についての子どもたちの回答は次のように分かれた(ハサミは除く)。

2本......3人
4本......22人
6本......49人
8本......13人
10本......1人
それ以上......1人

以上の結果から、カニのアシは6本アシと答える子どもが多いことがわかる。

おもしろかったのは、子どもたちの回答を集計した時のこと。ヨシキのクラスでは、ヨシキが8本アシのところに手をあげたとたん、8本アシ以外の数を予想していた子供たちから「しまった、8本アシだった」という声があがったのだ。新しいクラスでも、ヨシキは昆虫ハカセ的な存在として認知されているわけだ。そしてヨシキの予想どおり、カニのアシは8本だ。

ところが、さらにつづけて「エビのアシは何本?」と質問をしてみたら、そのヨシキも首をひねった。エビのアシもカニと同じ数......というのが、その答え。カニは8本のアシに加えて2本のハサミがあるが、このハサミももともとはアシである。つまりカニもエビも10本アシだ。じつはエビが基本形で、エビの特殊化したものがカニなのである。エビというとおいしい肉のつまっている胴体の部分が特徴的だけれど、この部分を甲羅の裏側におりたたんでいるのがカニだ(俗にカニのふんどしと呼ばれる部分である)。

さらにエビやカニのもっとも基本の形は、ムカデのように体の節ごとに1対ずつのアシが出ているというものである。実際、エビの胴体のところの節にも、アシのような突起がある。エビの尻尾の部分もよく見ると1対になっている。つまり、ここも、もともとはアシだ。だからカニのふんどしを開いてみると、その中にはやっぱりアシのような突起がついている。エビやカニ、ムカデ、さらには昆虫やクモをひっくるめて節足動物と呼ぶ。そのようにまとめられているのは、歴史をたどると共通の先祖にたどり着くからだ。つまり、これらの生き物はすべて、体づくりの基本ルールは一緒だ。昆虫のアシは6本でクモのアシは8本でカニのアシは10本......という違いが目につくが、いずれも節足動物の体づくりの基本ルール(一節ごとから、一対のアシ)を改訂しているに過ぎない。

「じゃあ、昆虫の触角ももともとはアシ?」

ヨシキがこんな質問をしてくれた。さすが「昆虫ハカセ」だけある。ヨシキのいうとおり、触角ももとをたどればアシ起源の器官である。節足動物とは、「アシを改造して作り上げられた生き物」なのだ。すなわち、生き物の進化は、体づくりルールの改訂の歴史だ。

じゃあ、僕ら人間はどうなのだろう。人間の祖先をさかのぼれば魚にたどりつく。では、魚と人間に共通した体づくりのルールとはなんだろう。はたまた、人間はその体作りのルールをどんなふうに改訂していったのだろうか。

授業はこんなふうに進んだ。

こんな授業を展開したのは、そのしばらく前、静岡の特別支援学校で中学生に行った授業に基がある。授業を行う前、支援学校の生徒たちからは、授業についてのリクエストが僕の所へ届けられた。7名しかいないクラスだけれど、「虫が好きです」「魚に興味があります」「鳥の飛ぶ秘密が知りたいです」「動物園で働いてみたいです」などなど。リクエストの内容は個々バラバラだった。一方、授業時間ももっていける教材も限られている。では、どんな授業をしたらいいのだろう。そこで、体づくりのルールということに着目したら、リクエストに答えつつ2時間の授業でおさまりそうだと考えた。H小学校の授業は、この特別支援学校での授業を改訂したものだ。

授業もまた、授業案の改訂の歴史の過程として存在する。この授業、これからどんなふうに変わっていくだろう。

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