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森山和道のインサイト・コラム(5)
3Dプリンターメディア懇親会レポート

サイエンスライター 森山和道
2013.09.01

3Dプリンター業界で「2強」と呼ばれている米国企業がある。3D Systems社Stratasys社だ。両社の名前は3Dプリンター絡みのニュースで必ず並んで挙げられる。どちらも買収等で業界の覇を争っている。

8月14日、3D Systemsの副社長で米国市場の販売責任者であるMichele Marchsan(ミケレ・マルケサン)氏が来日し、渋谷のものづくりスペースとしても知られる「FabCafe(ファブカフェ)」にて、「3Dプリンターメディア懇親会」が行われた。筆者も参加したのでざっとレポートしておきたい。

3D Systemsは国内では株式会社イグアスが販売代理店となっており、同社のパーソナル3Dプリンタ「Cube」シリーズなどは、ヤマダ電機など一般販売店でも扱っている。懇親会では、ミケレ・マルケサン氏のほか、イグアスの純粋持株会社であるJBCCホールディングス株式会社の代表取締役社長である山田隆司氏からも3Dプリンターをめぐる概要の講演があった。

同社が3Dプリンターを発売開始したのは2009年から。最初はなかなか苦戦していたが、最近は同社も「3D関連銘柄として注目されている」とのこと。今年度は前年比116%、10億円くらいの売り上げを目指すという。なお余談だが、JBCCホールディングス以外のいわゆる「3D関連株」としては、群栄化学工業株式会社、アンドール株式会社、MUTOHホールディングス、ローランドディー. ジー.株式会社,株式会社キーエンス、アルテック株式会社、パルステック工業株式会社などが挙げられる。これらは、NHKが、経済産業省が国産3Dプリンターのために来年度予算案に概算要求する、と報じられたときに軒並み高となった。

さて話を戻そう。ミケレ・マルケサン氏は「世界中で注目されていることを嬉しく思う」と話を始めた。JBCCホールディングスとも「最初は産みの苦しみがあった。紆余曲折あったが今は重要なパートナーだ」と述べ、「この五年間で日本文化を学んだ」という。今はイグアスのことは販売協力会社としてだけではなく日本国内にプリンタを広めるアンバサダーの役割も果たしている企業として見ているという。

3Dシステムズが設立されたのは1986年。特に2009年からは買収も積極的に進めており、いまは7種類の造形技術を持っている唯一の会社だという。サポートしているマテリアルは100種類以上。所有パテント数は1200以上。造形技術だけではなく、3Dモデルを製作するためのオーサリングツールも充実させており、独自のイノベーションセンターを11カ所に設置しているという。光造形や焼結法など様々な技術バリエーションがあり、ゴム、ナイロン、プラスチック、金属、セラミックス、コンポジット材料などに対応している。パーソナルユースから業務用まで広いレンジの製品ラインナップを展開している点が同社の特徴で、「あらゆるニーズ、予算に対応できる」と述べた。

顧客からのオンデマンドにも対応しており、パーツのサービスで世界ナンバーワンだ、と胸を張った。ここでいうオンデマンドというのは、材料を顧客が手元に置くことなく、ネットワーク経由で、ハードやマテリアルなどを選んでデータからコンテンツを作れるということだ。また同社自慢のオーサリングソリューションは、データをプリンター用に整えるだけではなく品質管理にも用いることができるという。

同社のプリンターは自動車や運送分野のほか、航空宇宙や防衛関連でも使われている。特に特殊な材料開発によって、出力したものがそのまま最終製品としても使われており、たとえばF-35戦闘機では同社のパーツが45も使われているという。このほか、医療用途も重要視していると述べた。医療

用途は個別対応が必要になるため、3Dプリンターが向いているという。

同社は最近、個人向けにも力を入れ始めている。アプリケーション例として氏が示したのは、ディズニーとのコラボだった。子どもの写真を撮って、白雪姫など好きなキャラクターとそのポーズを選択し、顔の部分だけ子どもの写真から作成したデータに入れ替えて出力して人形を作るというものだ。また、教育も重要な用途だと見ているという。「いまの小学生が社会人になるころには現在の職業の7割はなくなっているかもしれない」と語り、新しいクリエイティビティを養うためのも3Dプリンターは力を発揮すると述べた。3Dプリンターもオーサリングソフトウェアも、これまではエンジニアのためのツールだったが、これからは様々な分野で広く使われるようになると見ているという。

ミケレ氏は同社のモットーは「3Dプリントの民主化だ」と述べて、指で動かすだけで3Dモデルが作れるiPad用の「Cubify Draw」、Windows用の「Cubify Sculpt」などを示した。また歯の矯正用の製品をプリントで作る例を示し、これからはラピッドマニファクチュアリングで最終製品をプリントで作る時代だと述べた。そして、プリンターだけでは未完成であり、他の技術、すなわちタブレットや、クラウド、各種センサーなどの技術が重要であり、これらとの「コンバージェンスによって、今までにないデバイス、新しいものを作ることができる」と述べた。3Dプリントだけ見ていては新しいサービスを生み出すことはできないということだろう。

この後の記者たちとの質疑応答でも、氏はハードや材料だけではなく、ソリューションとしての位置づけが違う、と同社の強みを強調していた。また、cubify.comというコミュニティの存在も重要だと考えているという。日本でのローカライズも進めていく予定はあるとのことだ。

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