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未来技術・イノベーション

森山和道のインサイト・コラム(3)
3Dプリンターの家庭内での置き場所は何処に?

サイエンスライター 森山和道
2013.07.01

3Dプリンターへの熱が高まっている。6月に製造技術の展示会であり商談会である「日本ものづくりワールド2013」という展示会がビッグサイトで行われたが、なかでも、もっとも混み合っていたのが「3Dプリンター・ゾーン」だった。3Dプリンターで出力するためには3Dモデルが必要である。しかし、CADやCAM、3Dスキャニング関連の出展ゾーンの人混みは他と変わらなかった。一方、出力機械とそのサンプルが並ぶ3Dプリンターゾーンはものすごい混み方で、ブース間の通路は前に進むのも大変な状況になっていた。

いまの3Dプリンターブームには少なからぬ誤解があることも確かだ。3Dプリンターと呼ばれているものも、家庭にも設置できる十数万円程度のものから、数百万円、1000万円レベルの工作機械までが、一緒くたになっている。3Dプリンター自体の精度やランニングコストについても、製造業関係者であっても知識が十分に普及しているとは言い難い。だが、この混沌とした熱狂のなかから、新しい何かが生まれてくる可能性はありそうだ----。そう感じるに足る人混みだった。

人はやはりハンズオンで、実際に手にできるもの、触れるものを求めている。少なくとも触れる立体物に強く惹かれていることは間違いない。実際、この展示会では、これまではそれなりの存在感を占めていたヴァーチャル・リアリティ関連の出展が減少し、そのぶん、3Dプリンターに置き換わっていた。以前は「コンピューター内に三次元モデルを構築すれば、コンピュータのなかで様々な用途に使えますよ」と言っていたものが、一気に本当の3次元に溢れ出て来たような印象を受けた。

今回の展示会に「背広の人たち」が押し掛けた理由には、6月半ばに日本経済新聞が「パナソニックが家電製品向けの金型の生産に3Dプリンターを活用する」と報道したこともあったのかもしれない。この記事で報じられた3Dプリンターは、もちろん安価なものではない。ネット上では、これは松浦機械製作所の金属光造形複合加工機「LUMEX Avance-25(http://www.matsuura.co.jp/japan/contents/products/lumex.html)」だろうという見方を示す人が多かった。レーザーを使った金属光造形と、マシニングセンタによる高精度切削加工を一台で行えるという機械である。複雑な金型を、分割することなく一体構造で一気に造形できるため、多品種少量生産時代に向いているという。

国産初の一般ユーザー向け3Dものづくりマーケットも登場した。株式会社カブク(http://www.kabuku.co.jp/)による「rinkak(リンカク、http://www.rinkak.com)」である。「プラスチックはもちろん、陶器や金属、ラバーのものまで、3Dデータをrinkakにアップロードするだけで多様な素材のプロダクトを製造することができます」とされている。3Dデータを作れる人であれば、出力機を自前で持っていなくても商売ができる。いっぽう、3Dプリンタショールーム「CUBE」を渋谷運営する株式会社イグアスが発売した17万円弱のパーソナル3Dプリンタ「Cube(http://www.i-guazu.co.jp/3d_modelers/cubify/)」は5色のカラーバリエーションを用意。家庭用を強く意識している。また、カリフォルニア大学バークレー校には、自動販売機のような3Dプリンター「dreambox(http://www.3dreambox.com/)」が設置されているという。サーバにデータをアップロードし、パスコードを入れてプリントするという仕組みだ。ユーザーが払うコストはわずか数百円。

ただ、3次元データを作るのは、これまでCADなどを触ったことがない人にとっては大変だ。既存の立体物をスキャンして作るにしても、修正は必須。だが、それにももしかしたら革命が起きるかもしれない。年内に発売される新世代ゲーム機「Xbox One(http://www.xbox.com/ja-JP/xboxone/meet-xbox-one)」に付属する深度センサのKinectの性能は驚くべきもので、人体のモーションはもちろん、指の動きや表情まで認識させられる。それどころか脈拍まで非接触で分かるのである。さらに、Microsoftは既存のKinect用に「Kinect for Windows SDK 1.7(http://www.microsoft.com/en-us/kinectforwindows/develop/developer-downloads.aspx)」を公開しており、それには3次元スキャン機能「Kinect Fusion(http://research.microsoft.com/en-us/projects/surfacerecon/)」が実装されている。この開発ツールを使って3Dモデルを構築しているユーザーもいる。ここまで言えばあとは言わずもがなだろう。安価なセンサーが大量に普及することは、それ自体が革命なのである。特に、スキャンする対象物が最初からある程度限定されていれば、人手による修正の手間を最小限にすることもできるだろう。

いずれにしても、ブームは所詮ブームである。いずれは終わる。その間に、多くのプレイヤーが出て様々な足掻きを見せてくれることで、新たな可能性が拓かれる。業界自体も、産業用3D造型機を手がける最大手のストラタシス(Stratasys Ltd.、http://www.stratasys.com/)が、安価な3Dプリンターを出しているメイカーボット(MakerBot、http://www.makerbot.com/)を4億300万ドルで買収すると発表する(http://investors.stratasys.com/releasedetail.cfm?ReleaseID=772534)など、統合の動きを見せている。

また、連日のように「3Dプリンターで○○を作った」というニュースが流れている。特に医療応用の話題がニュースになっていることが多いが、それはまた別の機会にとっておくことにする。最近出て来たなかでは、木の香りがする材料を使う3Dプリントが面白い。オンライン3Dプリントサービス「INTER-CULTURE(インターカルチャー)」を運営するSOLIZE Products社が開発した、ナイロン粉末と木粉を使った「ウッドライク」という素材を使うと(http://inter-culture.jp/Buy/products/detail.php?product_id=332)、木の匂いがする造形物ができるという。木を使っているが、彫刻などでは不可能な造形物も作れる。

3Dプリンターの新規の応用のなかで、個人的にもっとも可能性を感じるのは、食材への応用である。たとえば、NASAは「The audacious plan to end hunger with 3-D printed food - Quartz(http://qz.com/86685/the-audacious-plan-to-end-hunger-with-3-d-printed-food/)」なるプロジェクトに出資している。長期の宇宙滞在中の食事を想定しているとされている。3Dスキャンから型を作って、人の頭部をかたどったチョコレートやグミを作っている例はFabCafe(http://tokyo.fabcafe.com/)などで実施されていて日本にもあるが、このプロジェクトでは、チョコレートを3Dプリンターで絞り出して直接造形している。そのほか、ピザなどを作ろうとしているという。

また、TechCrunchは、3Dプリンターでケーキ用の砂糖菓子を作って成功した夫妻の話を紹介している(http://jp.techcrunch.com/2013/05/30/20130529husband-and-wife-architects-create-the-sugar-lab-a-foundry-for-3d-printed-sweets/)。これには思わず唸らされた。現状のパーソナルな3Dプリンタの精度、あるいは出力して面白いものという視点で考えても、この「砂糖菓子」という存在は、良い出力対象と言えるのではないだろうか。お店の宣伝効果としても抜群だろう。これまでの誕生ケーキには「Happy Birthday」と描かれたチョコレート板が定番だったが、それが一気にオリジナルの立体物になるかもしれない。

もしかすると、3Dプリンター----というよりは「現状の3Dプリンター技術が応用された未来の新しい家電」----の置き場所は、工作室やガレージではなく、キッチンなのかもしれない。製造業への応用はもちろんだが、このあたりにも、この技術の、まだまだ見えないポテンシャルを強く感じる。頭を柔らかくして見ておくことが必要な技術だと思う。

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